ある日、私は夏休み中の高校に忘れ物を取りに行きました。
机の中とロッカーを探したのですが、目的の物はありません。あてもなく人気のない校舎内をウロウロするうちに視聴覚室の前まで来ました。
視聴覚室は廊下側に窓が無く、スライド式のドアに縦長の小窓が付いていました。そこにモニターの光が青っぽく映り込んでチラチラと揺らいでいます。
中から数人が話しをしているような音がしていました。耳を澄ますと、小さく笑い合うような声も聞こえてきます。
中でテレビでも見ているんだな。そう思いました。
なら少し脅かしてやろう・・・「オラッ!」大声でそう叫ぶと声がフッと止みました。光は変わらずゆらゆらと揺れています。
私は足音を忍ばせてドアの前を離れました。その時、後ろでドアが開く音がしました。
振り向くと、誰かが廊下に頭だけを突きだしてこっちを見ています。坊主頭の女の子。
眉毛も剃っているのかツルリとした印象の顔でした。ガラス玉のような目に大きな口。
見るほどに気味が悪いくらい無表情です。「見た?」「何を?」「中を覗いた?」私が首を横に振りました。
「動かないでね、死ぬから。」頭が一旦引っ込みました。
1分ほどそのまま待たされて、また女の子が顔を出しました。「帰っていいって。
よかったね。」そう言って、口元だけで笑いました。
結局、忘れ物は見つからず、その日から私は入院させられました。