俺が子供の頃の話だが、近所に「働けおじさん」というのが出た。
町なかの工事現場で鳶や土工たちが仕事の合間に一服していると、どこからともなく現れて、ムチのようなビニール紐(ビニール製のナワトビみたいなものだった)で地べたをビシバシたたき、「働けえ――! 働けえ――!」と、わめくのである。昔どこかの鉱石を掘る飯場で、こき使われたトラウマでおかしくなったのだとか言われていた。
ある時期から、おじさんは姿を見せなくなり、実はビニール紐で首を絞めて殺されたのだとか噂されたが、その後、おじさんの幽霊というのが現れるようになった。夜中の誰もいない工事現場などで、ビシ・・・ビシ・・・とムチで地面をたたく音がして、どこからともなく「働けえ~~! 働けえ~~!」という声が聞こえてくるというのである。
その声を聞いた者は、みな労働意欲を失ったという。