夏なのでひとつ。
その年は数年ぶりかの猛暑で、当時小学2,3年だった私はあまりの暑さに耐えかねて、学校の帰りに公園にでも寄って行こう、と一緒に帰っていたCを誘った。その公園は人工的に川が作られていて、最初は割と流れがきれいなところで足だけ水に浸したり、葉っぱの船を流したりしていたが、そのうち私はもっと上流へ行ってみたくなってきた。
Cは「そっちいくと怒られるよ」といって気乗りはしていなかったが、上流の脇の道は、ちょうど家の近道でもあったので(しかも木があって涼しい)結局一緒に来ることになった。軽い坂道を登るとすぐの距離に水源があった。
水源といっても循環式なので、ひたすら藻が多いちょっとした池のようなところで、割と深いらしく中に「危険につき立ち入り禁止」の札が立てられていた。奥の方で、どろどろと力のない小規模な滝が落ちている。
回りに木が多いせいもあってか、全体的にどことなく薄暗く淀んでいる雰囲気だった。「怖いよー」とおびえるCに、さすがに私も気味が悪くなり、「もうかえろっか」といいつつCの方へ振り返ってみて、瞬間凍りついた。
そこにいたはずのCはいなく、代わりに私の半分くらいの背丈しかない、赤い顔のおじいさんが無言で私を睨んでいたのだ。(変な人だ!)逃げなきゃと思い、走り出したかったが足がなかなか思うようにならない。
反射的に後すざりして離れようとした。「危ない!!」その一言で、はっと我に返った私は、今にも池に落ちそうになっている自分に気付いた。
目の前にいたおじいさんは気が付くと消え、その代わりにびっくりした顔のC。「どうしたの?」と不思議そうなCを連れて、泣きながら走って家まで帰った。