ずいぶん前の話なんだけど、18の時友達ん家に半ば居候してた。
友達は37歳でバツ1。14歳の男の子と二人暮し。
友達に似ず、その息子のA君はかなりの美少年だった。いろいろと友達は金銭的に苦労をしたようで、2人の生活はかなり荒れていた。
ゴミ貯め場のような部屋に犬と過ごしていたA君は少し暗い感じだったけど、すぐに私と兄妹のようにうちとけた。淋しかったんだろうと思う。
アルバイトをしながら、友達にお金をいくらか渡し1年ぐらい出入りしていた。ある日、珍しく自分の家に帰って寝ていた朝、妙な胸騒ぎがした。
何がどうだとわからないまま友達の家にかけつけると、学校へ行っているはずのA君が顔に緑の絵の具を塗りたくって家にいた。学校で突然そうしたくなったという。
友達が仕事中で連絡がとれなかったため、祖母に連れて帰られたらしい。絵の具を落とさせて話をしてみると落ち着いているので、「何か不安があるの?」と聞くと「お父さんと一緒に住みたい」とぽつりと言った。
間もなく大阪から父親が彼を引き取りにきた。とてもハンサムで理知的な男性だった。
私の家でささやかな送別会をした。A君は彼の両親と私の母親が色んな話をしている中私の部屋にこもりゲームをしていた。
私は彼と一緒にいる時間が惜しくて写真をとったりたあいのない話をしてそばにいた。次の日、彼を友達と2人で見送った。
それからしばらくして友達と口論になり、交流が絶えた。10年以上たった最近、母の知り合いが友達と会ったという。
あれから友達も息子の後を追い、大阪でご主人とよりを戻し3人で暮らしていたそうだった。しかしA君は高校生になった時、バイクの事故で亡くなったという。
私は別れた友達よりも、A君はどんな大人になっているだろうかといつも考えていた。いつか大人になった彼を見てみたいと思っていた。
想像が全くつかなかったから。ぐったりした気持ちになって、当時たくさん取った写真を取り出して眺めていた。
屈託なく笑うA君。何枚もA君の写真があった。
その中に1枚だけ妙な写真があった。大阪に行く前の夜、私の部屋で撮った写真。
A君の顔を撮ったものだったが、その写真は全体が赤くなっていて彼の顔はぶれていないのにふたつに分裂したように歪んでわかれていた。エイリアンが増殖する瞬間みたいに。
当時は写真のぶれぐらいしか思わなかった写真は、彼の訃報を聞いた後見れば見るほど奇妙で不吉なものにしか見れなくなった。私が一緒に過ごせた最後のA君との思い出だと思うとそれでも捨てることが出来ないでいる。