こっくりさんは漢字で『狐狗狸さん』と書くそうです。
『狐(きつね)狗(いぬ)狸(たぬき)さん』ですから動物霊を呼ぶのだとか、様々な説がありますが何やら、こっくりさんを信じなかったり冒涜したりすると祟るとの説もあるそうですから、あまり変な事は言わないでおきましょう。
実際に、私がこの話を聞いたのは、私が高校に通っていた頃ですから、今からもう二十三~四年前の話です。同い年の女の子が中学生の頃に体験した話ですから、実際に事が起こったのは今からもう二十五年以上も前になりますね。
放課後の教室に女の子が四人、机の周りを囲んでいました。『こっくりさん』をやる為です。
学校では『エンジェル様』が流行っていたそうですが、『昔ながらのこっくりさんの方が危ないけれども当たる確立が高いから』との理由で、彼女たちはこっくりさんをやっていたそうです。それまで何度もやっていたので手馴れたもの。
『危険はあるけど、私たちはプロだから大丈夫』と・・・彼女も後に、『何考えてたんだろう…』と苦笑してしまうような理屈と共に盛り上がっていたそうです。手際よく準備を済ませ、皆で十円玉の上に手を乗せこっくりさんを始めました。
『あの男の子が好きな女の子は?』『○×ちゃんが好きな男の子は?』他愛も無い質問が続きます。私の想像では、厳粛に物事が進められているものと思っていたのですが・・・実際に、厳粛にやっている方が殆どなのかも知れませんが、彼女たちは、「きゃあきゃあ」と大騒ぎをしながら盛り上がっていたとか。
そうして散々大騒ぎした挙句、こっくりさんにお帰りいただく事に。ところがいつもはすんなりと鳥居の場所へ行ってくれるはずのこっくりさん(最後は、紙の上に書かれた鳥居の場所から帰るのだそうです。)が、何故か『いいえ』の方へ。
初めての事に、先ほどまではおおはしゃぎだった彼女たちを緊張が包みます。
何度やっても帰ってくれません。本来ならば、決して十円玉に力を込めてはいけないのですが、このままでは祟られると思った彼女は、渾身の力を込めて、十円玉を鳥居の方へ運びました。
たどたどしく動く十円玉。結果、紙は破れ、机に大きな傷が残ってしまいましたが、何とか鳥居の方へ行ってくれました。
皆でほっとしながら帰路へ着きました。一抹の不安を残しながらも勿論、彼女は自力で帰したとは言えなかったそうです。
そして、その夜どうしても、その事を考えてしまいます『コックリさんはヤバイ』それは彼女も十分承知していました。『もしも、また誰かがやろうと言い出したらどうしよう・・・』そんな事を考えていた時です。
不意に電話のベルが鳴りました。電話に出て見ると、一緒にコックリさんをやったお友達の中でも一番仲の良い友達でした。
泣いています彼女は、『何かあったんだ・・・』と直感的に察しました。怖いです。
自分も当事者のひとりしかも、無理矢理こっくりさんを追い返したのは自分なのですから。でも、怖いながらも親友です。
何とかなだめておそるおそる話を聞いてみました。最初に驚いたのは、その娘も自分がこっくりさんを追い返したと思っていた事。
そう。電話を掛けて来た、その娘も渾身の力を込めて十円玉を動かしていたのだそうです。
「だから私、こっくりさんに呪われちゃったのかも知れない!!」その娘は、かなり思い悩んで居た様子です。
「大丈夫だよ・・・実はあたしも・・・」彼女は、自分も十円玉を動かしていた事を正直に告白しました。
「じゃあ、あなたの所にもこっくりさん来た?」その台詞を電話の向こうから聞いた瞬間、彼女の胸はぎゅっと締め付けられ、頭は真っ白になりました。『こっくりさん来た?』彼女は、激しく動く心臓の鼓動を聞きながら必死に自分を落ち着かせ、「まだ来てないけど・・・」と答えました。
頭の中で何とか状況を整理しようにもどうにもうまく行きません。『こっくりさんが来る?』どうしても、その意味が解りません。
「私の所には来たよ。突然、私の部屋のドアが・・・」コンコン・・・・「コンコンって・・・」その娘のセリフと、ほぼ同時に電話のある部屋の扉をノックする音がその扉の先にはキッチンしかなく、その時間、そこには誰も居ないはずなのに・・・彼女は思わず、悲鳴を上げました。
受話器に指が食い込む程強く握り締めながら、状況を訴えると、電話の相手は出ちゃダメだと必死に訴えていました。
「私、出て見たの。そしたら、誰も居なくて・・・」自分の場合、出て見なくても誰も居ないのは解っています。
「誰も居ないから、ドアを閉めたら・・・」
ドンドンドンドン!!!!凄い音で扉が鳴ります。
もうパニックでした。その声を聞きつけた家族が大慌てで駆けつけてくれて、ほっとした彼女は電話の相手にも家族と一緒にいる事を勧め、電話を切ったそうです。
その後、他の二人からも交互に電話が掛かって来て、全員が同じように自分の力で十円玉を動かし、全員の所で同じ現象が起きたことを知ったのだそうです。結果的に、四家族が集まり大騒ぎになってしまったとか。
結局、その夜は友人の家に皆で泊まる事になり、朝まで眠れぬ夜を過ごしたそうです。その後は何事も無く、平和に暮らしていたそうですが・・・彼女はそれ以来、ノックの音に過敏になってしまい、彼女の部屋をノックする事は、彼女の家では禁忌となったそうです。