デリバリーのバイトでもチラシを配る時がある。
俺がチラシを配っていたその日は、雨が上がったばかりですごく寒かった。水たまりのせいで靴はグチョグチョだし、まだまだ終わりそうにない件数に俺は苛立ちを覚えていた。
仕事を続けていると「荘」が二軒平行して建っている場所があった。「荘」か・・・集合ポストじゃねぇんだよな・・・面倒くさ。
「荘」は大抵集合ポストではないので、いちいち階段を昇り降りしなくてはいけないのだ。雨上がりのぬかるんだ地面を不快に感じながら、俺は階段を昇った。
昇り切った所でふと横を向いてみると、隣の「荘」の部屋が丸見えな状態だった。二階の左の部屋で何かがぶら下がっていた。
男が首吊りをしていた。目が悪い俺でも、なぜか顔まではっきり見えた。
すぐに警察に電話し外で待っていたのだが、「もしかしたらまだ生きているかも」と思いその部屋の前に向かった。鍵はかかっていなかった。
ドアは簡単に開いてしまった。キッチンの他には一部屋しかないようだった。
玄関からすぐに浮いている男の後姿が見えた。俺は恐る恐る男に近づいて生きているか確かめたが、やはり死んでいた。
俺が触れる力にも抵抗できず、ブラブラと揺れていた。その姿に死をリアルに感じ怖くなった俺が部屋から出ようとした時、男の右手が突然動いて、向かいの「荘」の正面の部屋を指差した。
俺は叫び声を上げ、部屋から飛び出した。しばらく外で震えていると警察が来たので、一緒に部屋に入ると死体は元のままだった。
俺はしばらく夢に見るほど、死体が動いた瞬間が忘れられなかった。あとで聞いた話では、死体が指差したあの部屋からも数日後に首吊り死体が見つかったそうだ。
寂しく死んだ男が、同じ死に方をした人間を早く見つけさせてあげたかったのだと俺は思っている。