家の近所に、主婦業の傍ら手相見もしているというおばさんがいた。
”御狐様の御告げ”と称するその占いはなかなかよく当たると評判で、遠方からも少なからず人が訪ねてきていたようだが、そのおばさんは決してその占いを”商売”にしようとはせず、謝礼なども頑として固辞し続けていた。そんなおばさんの人柄を頼って訪ねてくる人も多く、おばさんの家からは常に誰かしらの声が聞こえて賑やかだった。
ある日、そのおばさんが家の中で惨殺されているのが発見された。たまたまその日は珍しく客もおらず、翌日訪ねてきた近所の主婦が遺体の第一発見者となった。
その主婦の証言と警察の検分によると、おばさんは普段占いやお客さんをもてなすために使っていた応接間の真ん中で死んでいた。家の中は特に荒らされた様子はなく、金銭が取られた形跡もなかった。
身体の前半分が鋭利な刃物で抉り取られるという凄惨な殺され方だったというが、不思議と血はあまり飛び散っていなかったそうである。もう一つ奇妙なことは、おばさんの周りには無数の何か獣の毛が落ちていたということだ。
おばさんは、どちらかというと生き物の類が苦手な性質で、おとなしい小動物にすら決して近づこうとしなかったほどだった。そんなおばさんだから、当然生き物など飼っていなかったし、過去に飼っていたという話も聞かない。
ところが、警察のその後の調べで、おばさんの家の二階の押入れの中に生き物を飼っていた形跡が発見されたのである。その生き物によって殺されたのではないかと疑う向きもあったが、ああいった風に人間を殺すのであれば、相当の力と体躯を持った、例えば熊かそういった猛獣でなければ無理であるとのことだ。
当然、民家の押入れに隠して育てられるような類の生き物ではない。では一体誰が・・・・?結局、事件は半迷宮入りとなってしまった。
身内が少なかったおばさんの家は程なくして売りに出されたが、そういった事件の影響もあってなかなか買い手が付かなかった。長い間その家は放置され荒れ放題となっていたが、やがて取り壊されとうとう更地にされてしまった。
そして、どういう経緯かは分からないのだが、更地になったその場所へ、数年前お地蔵様の祠が立てられることとなった。今は完全にお地蔵様の広場となったその場所で、今年も「地蔵盆」が催される。