小学校に上がる前だと思う。
ある朝目を覚ますと隣で寝ている兄以外、家に人の気配がなかった。家中を見て回るが、誰もいない。
不安になって兄を起こそうと声をかけ、肩をゆするが目を覚まさない。どんなに激しく揺り動かしてもぐにゃり、ぐにゃりとするばかりで死んでいるかのようだ。
私は怖くなって家の外に出た。雨が降っていて薄暗かった。
家の周りを泣きながら歩き回ったが、家の外にもまったく人の気配はなかった。泣きながらまた家に帰りぐずぐずしていると、ふいと両親が現れた。
「どこにいってたの」と聞いても答えてくれず、「お父さんはここにいるよ」「お母さんはここにいるよ」と答えるばかりである。訳が分からなかったが、とにかく両親は戻ってきて私は安心した。
と、そこに兄が現れた。兄の顔を見た私は息を飲んだ。
そこにいた兄は兄ではなかった。背格好は似ている。
しかし昨日までの兄、さっきまで隣で寝ていた兄と顔が全然違う。目つきがきつい。
鼻が細く高い。ほほがこけている。
髪がぺたんとしている。あの不思議な朝のようなことはあれが最初で最後だったが、兄自体はそれからもずっと兄とは思えない男の子のままだ。