終電が最寄りの駅に着いたのは、午前1時を超えた頃でした。
私は疲れた脚で自宅までの道をとぼとぼと歩いていました。その日は裏道を選んでいたので、私以外には10メートルほど先に40歳くらいのサラリーマンが歩いているだけでした。
古い寺の前に差しかかった時、『ミー、ミーミーミーミー・・・』道の先から、か細い子猫の声が聞こえてきました。しかし、姿が見あたりません。
声に近づくと、ようやく分かりました。なんと鉄製で大きな扉のついたゴミ収納庫に入れられているのです。
カラスに荒らされるのを防ぐために、最近増えているあの網状のやつです。『ひどい事をする奴がいるなぁ』憤慨しつつ、助けようと歩を進めました。
すると、前を歩いていたサラリーマンも気づいたようで、『よしよし、可哀想にね・・・』と声を掛けながら鉄の扉を開け、子猫を救う為に体を大きく折って、上半身をゴミ収納庫に深く入れました。その刹那、『グチャッ』子猫は直径1メートルほどの巨大な口を開き、腹の辺りでくわえると、口を上に向け、一瞬のうちにサラリーマンを飲み込んでしまいました。
私は、恐ろしさのあまり金縛りに遭ったように動けなくなり、ただその様子を呆然と眺めるだけでした。子猫だと思っていたモノは、食べ終わると私の方を振り向き、血の色をした真っ赤な眼で一睨みすると、大きく舌なめずりをして消えてしまいました。
その後、私の住む町にはあの鉄製のゴミ収納庫が増え続けています。そして、行方不明になる人が増え続けています。