あれはまだ俺がガキの頃の話だ。
当時俺が住んでいたのは、公害病で世界的にも有名な土地だ。皆も知ってると思うぜ。
当然ながら町の至る所にそれ系の奴らがよくいた。後で知った事だが高校の教科書に当時の同級生の家族写真が載っていた。
そいつ自体はまともなんだが、その家族のなかに………な?解るだろ?詳しい話は割愛するが、とにかく錆と公害と差別意識や訴訟にまみれた辛気くさい町だった。(ブラックじゃねえぞ)そんな町に育ったためだろうか、当時の俺は弱い物を見ると残虐な衝動を抑えられない子供だった。
もっとも、親父が酔って殴りかかる家庭環境にも多少問題があったかもな。その、腐れDNAは俺にもしっかり受け継がれているが、俺は意地でも子供には手を挙げないぜ。
酒も飲まねえ。子供には俺と同じ思いはさせたくねえからな。
親父は弱かったんだろうぜ。ちょっと脱線したな。
当時の状況は概ねそんな感じだ。俺は、近所のガキ大将だったんだが、今にして思うと、人徳があった訳じゃないな(笑)俺は、ほ乳類、は虫類、魚類、昆虫、目に付く色んな生き物を無惨に殺しまくったよ。
当時は、牛乳瓶を爆砕しちまう程の強力な爆竹も駄菓子屋で普通に買えた。そんなある日、俺は一人で近所の記念公園(古城跡)に出かけた。
もう、秋口でその日はやけに肌寒かったのを覚えているよ。爆竹とパチンコの餌食を求めておれはあちこち探し回った。
城跡だけあって立体的な敷地のその公園の丁度頂上にあたる場所に来たとき、俺の視界の隅っこに、とても白い物が眼に入った。当時はコンビニ袋なんて物はない。
スーパーの袋も茶色の紙製だった。当然、その物体を退屈していた俺が見逃すはずはなかった。
うわっ!誰もいない公園で俺は悲鳴を上げた。人の足だった。
そう思った。正確には精巧に作られた白い義足だった。
それはいい、問題は季節はずれの白蛇だった。そいつは、近所の蛇にしては、かなりの大きさで、義足に絡みついて俺を睥睨している。
俺は、なんかヤバイ逃げなきゃ!そう心の中で思った。口の中で変な味がする。
だが、ここで逃げちゃ男が廃る。ところで、件の蛇は身じろぎひとつしない。
俺の事を意識しているのか?3m位の距離まで恐る恐る近づいてみた。やはり動かない。
途中で拾った石をパチンコにセットし、頭を狙って発射した。死んでいるのか?だが、どう見ても死んでいるように見えない。
閃いた、死んだフリか!俺は近くにあった棒きれで義足から蛇を引き剥がすと、慎重に2B弾をセットした。くらえ!爆竹は期待通りに蛇の頭を粉砕した。
破片が飛び散る。どうだ!やったぞ!俺は効果をもっと詳細に確認すべく、破片を踏まない様に近づいた。
踏んだら気色悪いからな。蛇頭の地雷原を越えて目の前まで近寄ったその時、今まで微動だにしなかったソレがのたうちまわった。
掘り出したミミズが跳ね回る様を知ってるかい?アレはまさにそんな感じだった。!!!!頭のない白蛇の飛沫が、尻尾が俺を叩く!驚愕のあまり無様にも尻餅をついた。
手を見ると蛇の白い皮が引っ付いていた。考え得る最悪のケースだ。
キレた。当時そんな言葉は無かったが俺は棒きれを手に取ると、めった打ちにした。
一抱えもある石でトドメを刺すと、義足を振り回して、斜面の竹藪に投げ捨てた。惨憺たるその場を後にしてその日は家に帰った。
手を洗うことしか考えられなかったな。後日仲間を連れてその場を検証しに来たが、跡形もなかった。
それから、どの位後の事かは覚えていない。1ヶ月後か?1年後か?俺はその公園にいた。
芝生の斜面があってそこから屋根がつきだしている。中には祭壇の様な物があり、先端が尖った鉄柵で囲まれた場所がある。
変な造りだ。土砂崩れで半分埋まった家屋みたいな感じだ。
俺は、斜面から屋根に移動すると柵で囲まれた中に飛び降りた。柵の鍵を外すと開けはなって皆でその場を蹂躙していた。
おもむろに、そいつは現れた。振り向いたらそこにいた。
真っ白な詰め襟で、顔を見た瞬間俺は凍り付いた。片眼が白いのだ。
走って逃げる!そう思ったが足が動かない。他の奴は逃げちまった。
近づいて来る。俺は硬直した。
その時、俺の頭の中に閃いた。あの白蛇の事だ。
奴はこんな気持ちだったのか?白ずくめの奴は俺の前に来るとこういった。「早く帰らないとヤンボシがくるぞ。
」やんぼし?聞き慣れない言葉に底知れない恐怖を覚えた俺はいつの間にか動くようになった足で転げるように逃げ帰った。ヤンボシとは?親兄弟、知人、色んな人に聞いて廻ったが誰もその言葉を知らない。
あの白ずくめの人は何者なのか。わからず仕舞いのまま遠くに引っ越した。
ともかく、その一件のあと、生き物を殺すのはやめた。あれから20年たった今では笑い話だが、当時の俺には正に洒落にならない怖い話だったぜ。
そのうち見に行ってみるかな。