洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】ドアを蹴る音

    2024/08/30 21:00

  • Rという元カノがいた。

    別れてからもちょこちょこ連絡はとったりする仲だった。なので、たまに他愛もない理由で電話がかかってくる事もあった。

    だがその夜かかってきた電話はちょっと違っていた。電話の向こうのRは怯えた感じで、今すぐ家に来て欲しいという。

    Rはその頃アパートを友人と共同で借りており、丁度その時間帯は一人だったらしい。別れてから家に招かれる事はそれまで一度も無かったし、まぁ行ってやっか、って感じで菓子を買ってからRのアパートへ向かった。

    電話では何故俺を呼ぶのか理由を聞かなかった。ただすぐ来てくれと怯えた口調で言われただけだった。

    まさかドッキリか?などと思いつつも到着してみれば本気でRは震えていた。どうしたのか尋ねると、ドアを誰かが蹴るのだという。

    そのアパートの造りはまず玄関から入ってすぐ突き当たるため、左に進んで六畳程の部屋に到達する。その六畳の部屋に入る前にもう一度ドアを通るのだが、そのドアを誰かが蹴るという事らしい。

    当然ドアを閉めていても誰かが侵入してくれば玄関のドアの音、六畳部屋までの通路を歩く音で気付く。だがどんなに静かにしていても何の気配も音も無しにドアが蹴られるというのだ。

    俺はハッキリ言って霊感ゼロである。それまで幽霊も見た事無いし、不可思議な体験をした事も無い。

    なのでかなり余裕を持って「部屋の気圧かなんかがアレで蹴られたような音が響くだけじゃね?」と訳の判らん結論を下し、買ってきた菓子をつまんでいた。それから十分経ったか経たないか、その時突然音が響いた。

    ドンッという鈍い音がドアから聴こえたのだ。テレビもつけていなかったため、空耳ではなかった。

    全然別の所を見ていた俺は身体をビクつかせて慄いた。Rも眉間に皺を寄せてまた震え始めている。

    咄嗟に俺はドアを開けて玄関から続く通路を見た。誰もいない。

    玄関のドアは完全に閉まっていて、誰かが開けた形跡も無ければ出ていった形跡も無い。ちょっと怖くなる俺。

    とりあえず玄関の鍵が開いていたのに気付き、ちゃんと鍵を閉める。これでもう大丈夫、と無理矢理自分とRを納得させてまた部屋に戻った。

    が、そのすぐ後にさっきよりも遥かに大きなドンッ!という音がドアから発せられた。丁度俺はその時ドアを凝視していた。

    確実にドアを蹴った時のようにドアが振動したのが判った。「誰だ、オイッ!」と、俺はドアを開ける。

    でもまた誰もいない。ドアは確実に鍵を閉めた。

    入って来る者などいる訳が無い。この時点で俺は人間の悪戯説を完全に否定せざるを得なかった。

    部屋ではRが泣いている。震えも止まらないようなので俺が隣に行って慰めてやろうと思った。

    だが、情けない事に俺もちょっと震えていた。その時インターホンが鳴った。

    かなりビビッたが、同時に人が来たという事で多少安心する俺とR。開けてみればRの友人だった。

    俺だけじゃなく、その友人にも来てくれとRが頼んでいたらしい。だがその友人は興奮気味に俺達にすぐそばで起きた事故について話し出した。

    アパートから少し歩くと大きな国道に出る。そこでバイクと車の衝突事故があったという。

    蒼ざめながら見に行ってみると、すでにバイクの運転手は救急車で運ばれた後だったが、フロントタイヤが拉げたバイクを見て相当な勢いで衝突した事を感じ取る事が出来た。これを見るに当たり、俺とRは本気で血の気が引いた。

    もしかしたらあのバイクの運転手はそのまま死んだかもしれない。その運転手があのドアを叩いたのかもしれない。

    その時の俺達はそうとしか考えられなかった。俺はその後家に帰ったが、友人がRの家に泊まっていったようで、その日は眠る事無く過ごしたらしい。

    程無くしてRはそのアパートから引っ越したという連絡を受け、今に至る。あれから電話で話す事はあってもあの事故の日の事が話題に上る事はない。

    あの頃はあれでもうアパートの心霊体験は片付いたと思っていた。事故った運転手の魂か何かが偶然にもあのアパートのドアを叩き、俺達に何かを知らせたのかと思い、忘れ去っていた。

    だがあれから時間が経ってよくよく考えてみれば、事故が起きたと思われる時間以前からRはドアを蹴る音を聴いている。あの強烈にデカイ音は上に書いたように考えて辻褄を強引に合わせていたが、その辺りは今もって理解出来ない。

    これは俺の唯一の心霊体験である、と確信している。俺は今でもあのアパートの近くを通るのは避けている。