俺の母親に聞いた話。
母親は俺が生まれる前に夢で侍に会って「お前の子どもは死産になるだろう。その子の魂は穢れているから我々の食料になるのだ」と、そう言われたそうだ。
それで困った母親が親戚の修験者にその話をして、霊験あらたかな荒縄をどこからか入手した。そしてその縄を出産までの間、腹に巻いて暮らしていたんだと。
しばらくするとまた夢に侍が出てきた。「その縄を今すぐに外さないとお前の命はない」そう言われたそうだ。
でも母親は外さなかったその縄を。なぜかというと修験者に「この縄を巻いておけば侍が腹の中の赤ちゃんに悪さをすることはできない」と言っていたから。
その晩はそれだけで済んだけど、それ以来頻繁に侍の夢を見るようになった。そして出産間際になると、ついに侍は刀を抜いた。
「その忌々しい縄を外さなければ今ここで貴様を叩ききってやる」そう言われたけど、母は赤ちゃんを守らなきゃならないから断った。横向きで寝ていたところを、後ろから切りつけられる夢を見て、母親は目が覚めた。
子どもは無事に出産したけど、母親の背中には古い刀傷のようなものが今でもあるそうです。