小学生のときの話です。
私は他人の怪談話は大好きなんですが、とても怖がりでもあります。例えば、夜1人でいる時は部屋の鏡やテレビ画面なんかを直視することができません。
だからさっさと電気を消して布団に潜ってしまうのです。さて、私の部屋にはフランス人形を安っぽくしたような人形が置いてありました。
幼い頃は平気だったこの人形にも恐怖を感じるようになり、正面を向いていたのを横にしこちらに視線を向けられないようにしたのです。その夜、体が動かなくなりました。
呼吸も途切れ途切れで苦しかったです。すると右耳に何か流れ込んできました。
野太い男の声で、呪文のような…半ばパニックになり、声を上げようとしました。しかし、声を出そうとすればするほど呼吸が止まってしまうのです。
目をぎょろぎょろさせても開いてるんだか開いてないんだか、真っ暗で何も見えません。途端、パキィン!と鋭い音がしました。
「割られた!」と思いました。すると、部屋全体が明るくなったのです。
電気つけっぱなしでした。夢だと納得し、ほっとしました。
安心感から部屋中を見渡し、再び眠ろうとするとあることに気がついたのです。右のタンスに置いた人形が正面(つまり私のほう)を向いていました。
再びパニックになった私は両親の部屋に飛び込み、その晩はそこで寝ました。翌日、学校で隣の家の幼馴染に「昨日、怖い夢見てさー」と話をしました。
幼馴染は話半分に「へー」とだけ言いました。その日、幼馴染を家に招きました。
幼馴染にその人形を見せると「スゴイ!大きい人形」と嬉しそうです。「いいなぁ。
夢の人形ってこれでしょ?カワイイじゃん、嫌なら頂戴よ」幼馴染はその人形を持っていきたい様子。今までさんざんリカちゃん貰ってきたし…そうして、人形は彼女の家に貰われていきました。
翌日の朝、鏡を見て仰天しました。顔の右半分をニキビのようなものが覆っていました。
「イヤー、気持ち悪い!」見られたくないなぁとは思いましたがしょうがない。普通に登校しました。
学校で幼馴染が私の顔を見るなり「わっ何それ!」と絶叫。やっぱり目立つか…と思い「なんだろうねーニキビ?」と答えました。
すると彼女は「鏡…!保健室!!」と、私に小さい棒鏡を持たせました。顔のニキビは真っ赤な引っかき傷に姿を変えていました。
「うわっ掻いた覚えないのに!!」急いで保健室へ行き、洗ってもらいました。先生が言うには吹き出物が炎症を起こしたものらしいです。
触ってないのに…。人形を話題にしたんですが、何事もなく飾られているらしいです。
その日の夜、ベッドに寝転んでいたのですが顔の右半分がやけに熱いです。首筋に汗でまとわりついた髪の毛がチリチリするような感じ。
幼馴染の家から怒鳴り声がします。夫婦喧嘩か親子喧嘩かわかりませんが珍しいことではありません。
しょっちゅう喧嘩する家です。「火ぁ事だー!!」ベッドから飛び起きました。
また部屋の電気つけっぱなし。私は直感でうちだと思いました。
きっと隣の兄の部屋。兄の部屋はゴミ溜めの巣で、押入れの中で寝ており煙草を吸うからです。
さっき顔が熱かったのも、もしやそれ…?予想は大きく裏切られました。真っ赤に染まっていたのは幼馴染の家だったのです。
私は飛び出していく両親に部屋にいるよう言われ、震えながら眠りました。翌日、幼馴染の家は半分以上焼け落ちていました。
学校に行くと、早速火事のことが伝えられ明日からカンパを募るのでよろしくと連絡されました。幼馴染は普通に登校していましたが、やはりみんな遠慮気味でした。
「火事の原因はなんだったんだろう?」さすがに聞けませんでした。しかし、幼馴染は自分から事情を話し出したのです。
「人形が親父に見つかっちゃった。『どこから持ってきた!!』とすごい剣幕で怒鳴ったの。
私は貰ってきたと言ったのに親父はいきなりキレだして火をつけて床にぶん投げた」『人形』の単語に私は背筋に冷たいものを感じました。「えっ!?じゃあそれが原因!?」「まさか、すぐに火は消えたけど、顔が丸焼けたのでそのまま捨てちゃった。
…ゴメンね?」私は無言で首をぶんぶん振りました。彼女のお父さんはすぐカッとなる人らしく、今までも物に当たったり火をつけたりすることがあったそうです。
今回の火事も火の不始末が原因。私の部屋に置いてあった人形。
右から聞こえてきた呪文、右側の顔の炎症、顔が熱い、焼かれた人形の顔。なにかが繋がってるようで怖かったです。
ちなみに彼女はそこを引越し今は普通の高校に通っているそうでとても元気です。私はその一件以来、さらに怖がりになりました。
が、彼女はいまだに趣味のシルバニアを集めているようです。