俺は、警察官だ、曲がったことが嫌いである。
時には、酒も飲み、タバコも吸うが、曲がったことは、なにもしたことがない 。もちろん、警察官としての勤務態度も、人一倍良かったはずである。
自分では、そう信じてきた。あんな体験をするまでは・・・。
ある冬の夜だった。 その日は非番で、仲間と飲みに繰り出していた。
俺の勤務する○石署は、どちらかと言えば、田舎にある。このまえの夏は、全国的に有名な事故が多発した町である。
テレビのワイドショーを何度か賑わしていた。警察官としては、面白くない話題である。
久しぶりの飲み会で、俺もついつい酒がすすんで、かなり酔っていた。一緒に飲んでいた仲間の中に女の子がいたこともあり、みんなすごく良く飲んだ。
飲み屋を出て、仲間の一人が、「おい、海見に行こうか」といい、みんなも一緒に行くことになった。飲み屋から、歩いていける海、○蔵海岸についた。
ここは、昨年陥没事故で、幼い命が犠牲になった場所だった。 「けっ、立ち入り禁止になってるやんけ、つまんねぇ。
」長いこと歩いてきた俺達には、納得がいかなかった。 「せっかく来たのによぉ。
」仲間の一人が、いらつきだした。すると、一緒にいた女の子の一人が、こう言った。
「ねぇ、あそこの上で、おしくらまんじゅうするのは どう?。」ふ、不謹慎だ。
彼女の指差す方向には、将棋倒し事故で有名な、○霧歩道橋が横たわっていた。そんな所で、こともあろうに、おしくらまんじゅうだとぉ。
しかし、酔っ払ってわけがわからん仲間たち(俺も含めて)にはそんなこと関係ない。 「おぉ。
おもろいやんけぇ。」 「でっしょー。
」 「ギリギリやなぁ。」 「なにがやねん。
」笑いながら俺達は、その歩道橋を上っていった。 「なんや、別に怖わないのぉ。
」 「いや、怖い言うてないやろ。」 「もっとこう、生暖かい風が吹いてたりせぇへんのかぁ。
」 「せやから、べつにオカルトスポットちゃうっちゅうねん。」ふ、不謹慎にもほどがある。
が、酔ってるからこんなものか。 「さぁ、そろそろ、はじめますか?。
」 「せぇのっ、おーしくーらまーんじゅーおーされーてなーくなぁ。」みんなで、円を描いておしりをつきあわす。
最初は、すごく楽しかった。でも、ふと頭の隅に、不謹慎かなぁ。
と言う想いが、出てきた。その瞬間。
「えいっ。」小さい子供の手が、俺の身体を突き飛ばした。
「うわぁ。」みんなの中心に、俺の身体は滑り込んだ。
「なにをすんねん。」しかし、だれの耳にも俺の声はとどかない。
それどころか、力が強くなるばかり。 「うぐっ。
」 「苦しいよ。」 「苦しいって。
」 「お兄ちゃん、苦しいよね。」 「えっ。
」子供の声だ。なにか、周りの空気が、すごく暑く感じられた。
「おい、なんか子供の声せぇへんかったかぁ?」 「なにを言うとんねん。もうギブアップかぁ?」 「いや、そうじゃなくて。
」暑い、ものすごく暑い。まるで真夏のようだ。
「はっ。」俺は、周りを見て驚いた。
歩道橋一杯に人が、ひしめき合っている。まるで、あの日のように。
いや、あの日だ。あの日なんだ。
俺は、あの日の歩道橋にいる。 「ぐわぁぁぁ。
」物凄い力が、身体にのしかかってくる。 「苦しいよ、苦しいよぉ。
」ふと、下を見ると子供が人の体に挟まっている。 「すみませーん。
子供がいますぅ。」 「押さないであげてくださーい。
」声をふりしぼって、叫んだ。どおぉぉぉぉぉぉぉ。
凄い地鳴りと共にいままでの倍ほどの力が、かかってきた。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ。
」周りの大人たちも、悲鳴をあげている。くそ、なんとかならんのか。
歩道橋の外に、目をやった。警察官が見える。
「おーい、なにをやっっとんじゃ、ここなんとかせぇ。」くそ、こんなときに交通整理なんかしやがってぇ。
誰だあいつは。あっ、 俺だ。
俺がいる。いや、おれはあの日ここにはきてないんだ。
ほかの所で、飲酒検問をやっていたんだ。 「ぐわぁぁぁぁぁぁ。
」圧力が強くなってきた。子供たちは大丈夫なのか?。
「だいじょうぶじゃぁなかったんだよぉ。」子供達が、俺の周りにいる。
悲しそうな目で、俺をみている。 「ごめんなぁ、みんなここのことなんて、気が付かなかったんだ。
」 「大人達のこと、責めないでやってくれるかい?。」 「こうなったのも、止められなかったのも、」 「俺達大人のせいなんだよ。
」 「ほんとうに、ごめんな。」 「ほんとに・・・。
」 「寒っ」あれ?どこ、ここ。俺は、舞○駅のベンチで寝ていた。
「おおっ、気が付いたぞ。」 「心配したぞ、お前。
いきなり倒れやがって。」 「大丈夫?。
」 「飲みすぎじゃ、お前。」仲間が缶コーヒーを差し出した。
「って言うか、なんで舞○駅?。」 「いや、タクシー拾おう思てなぁ。
」 「さっきなぁ、」 「ん?なんやぁ。」 「いや、なんでもない。
ちょっと飲みすぎた。」 「そうじゃ。
帰ろ。」俺は、さっき起こったことを、仲間に言えないまま家路についた。
その夜は、死んだ様に眠った。次の日、出勤した俺に、後輩がこういった。
「先輩!、どうしたんですか、そのアザ。」何ぃ。
アザってなんだ?。 「どこぉ。
アザってぇ?。」 「腰のところですよぉ、ほら。
」鏡をあてて見て、俺は凍りついてしまった。 そこには、くっきりと子供の手形が残っていた。
あれから、もう半年以上たつが、いまなおはっきりとそのアザは 俺の背中に残っている。なにかを言いたそうに・・・。