洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】怪現象の元凶

    2024/08/16 21:00

  • おれは就職のため東京に引っ越した。

    なかなか部屋はなかったけど、最後に不動産屋が渋々紹介してくれた部屋でさ。北向きでも新しい物件で5万円、1LSDKって間取りの、広めの部屋。

    場所も○天宮の脇で、もろ都心。「都心もそれ程家賃高くないな。

    掘り出し物かな。」程度に思った。

    気がついたのは、異変が起こってからだったよ。この部屋は洗濯機等の家具付きだった。

    あとテレビデオ(死語)、冷暖房、電気(照明)。あと、珍しいものでは、収納室(SDKのS)に、赤い自転車を置いてくれてた。

    丈夫な造りの建物だし、ほんと満足だった。しかし、最初の晩からブキミなことが起こったんだ。

    夜、風呂に入っていたら、部屋の方から、何か聞こえてきた。「ズル・・ズズズ・・・」と、ひきずる様な、低い声の女性の喉が詰まったような音が。

    俺は驚いて、「えっ!??」って声を出した。同時に音がやんだ。

    気のせいと思ったけど、ひとりで風呂に入ってるのが怖くなった。出た時、異変に気づいた。

    ひっそりと静まり返るおれの部屋。リビングの電気もついていない。

    比較的強気な俺だけど、びびった。「電気はつけてたはずなのに。

    。。

    」おれは、混乱した。脱衣所から外に出るのが怖かった。

    幽霊なんて信じちゃいない。でも、脱衣所の外に広がる暗闇・静寂はどう考えてもまともじゃない。

    気を静めるため、とにかく体を拭いた。でも湿気がとれない。

    冷や汗が止まらなかったんだ。服を着た。

    何か護身用にと、姉がくれたドライヤーと、ヘアスプレーを持った。とにかく怖くて、歯がガチガチ震えるんだよ。

    脱衣所の扉をゆっくりと開くと、そこには、何も見えない暗闇が広がってた。街灯の多い通りに面してるのがおかしい位、何も見えない。

    ごくり。おれが生唾を飲む音が、いやにそらぞらしく、耳に響いた。

    「ズズズ・・・」突然、あの音が、うつろな闇の奥から湧き上がってきた!!おれは急いで電気をつけようとした。でも、スイッチを押してもつかない!「ズズズズ!!」音がいきなり大きくなった。

    近づいてくる!暗闇の中、おれは咄嗟に、夜中だってことも忘れて「ぎゃぁ」っと叫び、脱衣所に逃げ込んだね。そのまま脱衣所の扉を固く握り、朝が来るのを祈ったよ。

    おれの祈りは、通じなかった。「ズル・ズル・・ズズズ・・!!」おれの握ったドアノブが、いきなりグイグイと下げられた!おれは力の限り、抵抗した。

    必死で腕に力を込めた。「やめろぉ!」叫び声が家中に響いた。

    それでもドアノブはグイグイと腕を押し下げてきた。もうだめだと思った。

    今度は、扉が引っ張られた。俺の腕は、素早く、扉を引き寄せた。

    無我夢中だった。「やめてくれぇ!!」届くはずのない願いを、俺は連呼した。

    その刹那。「ドン!ドン!ドン」おれの心臓は、ドクッと大きく動いた。

    玄関の扉をたたく音だ。「こんな時間に、何を騒いでるんですか!!」玄関だ。

    脱衣所の扉じゃない。「助けてくれ!」俺は叫ぼうとした。

    そのとき、俺の押さえる扉から、すっと圧力が抜けた。ほっとした次の瞬間「ドカン!!」俺の心臓は冷たくなった。

    扉に何かが突進し、ついで、それがつぶれた気配があった。「助けてください!!」俺は、力の限り叫んだ。

    たすけに来てくれたのは、下の階の夫婦だった。その二人によると、まえの住人も夜中に騒ぐことがあったので、何度か注意をしていたんだそうだ。

    部屋の外で、おれは部屋の電気がつかないこと、部屋のなかで起こったことを話した。夫婦は、意外にも、俺の頭がおかしいとは思わない様子で、黙って話を聞いてくれた。

    そして、二人は「夜中だから、今日は私たちの家に泊まって、明日電気屋を呼ぼうね。分かった?」って言ってくれた。

    涙があふれた。東京なんて、高いビルばかりの冷たい街だと思ってた。

    でも、夫婦は本当に優しい人たちだった。その夜は、夫婦の家に泊まった・・・・「またこの物件かぁ。

    」翌朝、管理人と電気屋が溜息混じりに言った。「この物件ね、よく停電するんだよ。

    しかも、何でもないのに、電気がつながらなくなっちゃうんだよね。」とにかく、俺は鍵を開け、部屋の扉をそっと開いた。

    すぐに、異常な物が目に映った。脱衣所の扉に、べったりと、赤い液体がこびりついていた。

    あまりの恐ろしさに、俺は、気が動転し、息ができなくなった。「またかぁ。

    」扉を拭きながら、管理人が、ひとりごちた。「いまさらで悪いんですけどね。

    」ばつが悪そうに管理人が続ける。「前にも、何度か同じようなことがあったんですよ。

    ここは元々、建売のマンションだったんですけどね、なぜかこの部屋だけは、持主の意向で賃貸にしたんですよ。日当たりも悪いんですけど、この部屋は、異様に暗くて、買手がつかなかった。

    持主は、設計上瑕疵があるに違いないので、とても人様には売れない、この瑕疵の分、割安価格で、賃貸にしようって言いました。私は管理を担うだけだから、従いました。

    」管理人は言葉をとめた。平静を保つためか、タバコをすった。

    しばらくすると管理人は「私を責めないでくださいね。」ポツリと呟いた。

    「最初の住人。。

    責任は彼らにあるんですから。」そこで、管理人は口を閉ざした。

    自分の部屋が怖い。この事実に、俺は耐えられなかったが、自分の荷物が全部この部屋にあることがそれ以上に恐ろしかった。

    「勝手で申し訳ないですが、引っ越してください。」管理人が手を床につき言葉を繋げた。

    「引越しに必要な費用は、こちらに負担させてください。」俺は本当に救われた。

    昨晩のことで破けてしまった心が、再びつながった気がした。すぐに、不動産屋に連絡した。

    持主にも。両者とも、素直に納得し、解約の申し出はこの電話のみで良いといってくれた。

    引越屋の手配も請負ってくれた。幸い、引越し初晩で、荷物の大半は開いてはいなかった。

    片付けはあまりないけれど、俺の精神状態を酷く心配した夫婦が、手伝ってくれた。片付けも終わり、いよいよ引越屋を待つだけ、となった時だった。

    旦那さんが、余計なものを見つけた。「このビデオテープは君の?」しーんと静まった部屋で一同はおれを見つめた。

    テープを手に取った。頭が真っ白だった。

    何分たったのだろうか。おれは、うっかり、余計なことを言った。

    「違います。でも、見てみたい。

    」ごくり、と、皆が息をのんだ。怖かった。

    でも、おれは知りたかった。責任者とはどんな連中か。

    あれは何だったのか。おれは、自己の責任において、ビデオを見ることを決めた。

    管理人も、夫婦も、真相を知りたい気持ちは同じだった。きっとこのビデオには何か手掛りとなる事実が映っている、と、誰もが直感した。

    その時、突然、おれのPHSが鳴った。引越屋だ。

    あと1時間位で到着するそうだ。良いタイミングだった。

    十分な時間が与えられた。テープは、この部屋を撮ったものだった。

    そこには、一家三人。きゃっきゃとハシャグ2歳くらいの赤子。

    優しそうな男性(父親)と美人だが陰鬱な顔の女性(母親)が写っていた。映像が切り替わる。

    うるさかった部屋には、今度は誰も写っていない。画面の左り端には、黒い影が映っている。

    撮影者の指のようだ。ただ、何だかゴトゴトと音がしている。

    しばらくじぃっと画面を見つめていた。まわりは、すっかり夕暮れになっていた。

    「イヤァ!!」急に、かぼそい悲鳴が響いた。一緒に見ていた奥さんだ。

    目を閉じて、すっかり脅えながら、画面を指差して言った。「せ、せ、洗濯機のなか。

    。。

    」おれは息をとめた。ゴトゴトいう音は洗濯機だ。

    そして、よく見ると、何か見え隠れしてる。小さな赤く染まった手だった。

    内部に入ってる物は容易に想像できた。あの子だ。

    楽しそうに遊ぶ姿が印象的だった、あの赤子だ。誰もが固唾を呑んで見ていると、急に画像が乱れた。

    ざぁーと、波が入った。しばらくすると、うつろな部屋が再び写された。

    皆、動けない。話せない。

    おれは、背筋が凍りついた。洗濯機から赤い血糊が部屋の中へ、べったりといっぽんの帯となって続いている。

    そしてその先には、ズ・ズズッと這うようにうごめく赤い塊があった。ぐちゃぐちゃで、顔も手も、足も分からない。

    だが、一つ、異様に目に付くものがあった。大きく、異様に歪んだ口だった。

    口の中には、ぎょろりと、こちらをじっと睨む瞳。血の滲んだ目だ。

    誰も声を出せなかった。沈黙の後、だまっていた管理人が泣崩れた。

    「こんなことが。」赤い塊は「・・ね」とつぶやき、洗濯機の中へと這い戻った。

    次の瞬間、画像が上下した。床に落ちたのだ。

    続いて、画面に飛び込んだのは、意識を失って倒れた撮影者だった。陰鬱な顔をした美しい女性。

    ただ、美しさはもはや損なわれてしまった。真っ赤に染まったうつろな顔。

    その鮮血は、崩れた左の眼孔から絶え間なく流れでていた。おれは、その夜、部屋を出た。

    ホテルにつくと喩え様のない悲しみがこみ上げた。翌朝○天宮様へいった。

    彼らの冥福を祈るために。