中学生の頃の話。
私はどちらかというとクラスではやかましい方で、しょーもないイタズラをしたりヒトをからかったりするのが好きだった。(イジメとは違います、念の為)ある日、親友である大人しいタイプのAが、放課後の学校に行ってみようと言い出した。
放課後っつっても夜に近い夕方で、外から見れば職員室だけ電気が点いていて他は真っ暗…といった感じ。しかも冬で日は短く寒く、田舎なので学校の周りも暗かった。
まだ開いてる職員用の玄関から靴を持って入り、階段を上がり3Fの教室へ向かった。私は怖さをごまかす為にハイテンションで、「あっはっはー!こえー!」なんて言いながらAより先に歩いていた。
Aは何も答えてくれなかったが、いつもうなづきが基本の無口なAなので疑問は抱かなかった。目的は教室の、友達みんなで書いていた小説のバインダーとノート。
あれを取って帰ってくるというものだった。玄関側の階段と逆の端っこにある教室まで非常灯と外の青白さだけの廊下を早歩きで歩いていく。
「中はあったかいね」やっとAが喋り、余裕も出てきた私は振り向いて「帰りにコンビニでおでん食おー」なんて話していたら、教室に着いた。外は風が強く、木がざわめいていた。
私はAがノートとバインダーを鞄に入れたのを見ると、安心して調子にのり、タチの悪いいじわるを思いついた。無言でAより先に教室を出て、Aが来たら悲鳴を上げて先に逃げるというもの。
私はニヤニヤしながらすぐに教室を出た。足だけは早い私は、廊下を抜け階段の手すりをツツーッと滑ってあっという間に1Fに着いた。
Aが泣き顔で下りてきて私をぶったたくんだろうなあなんて考えて1Fの階段で待ち構えていたんだが一向に下りて来ない。「イタズラ返しか?!私にその手は通じぬ!」と勝手に考えて、音を立てず階段を上がっていった。
2Fまで来ると、小さくAの泣き声が聞こえてきた。私はそこで初めて罪悪感を感じ、バタバタと音を立てて駆け上がった。
「ごめんごめん!泣かないで!」その時気付いたが、いつの間にか泣き声がしなくなっていて3Fの長い廊下のどこにもAは居なかった。あの静寂は今でもトラウマで、夜の学校の出てくるような映画やらは見ないようにしている。
「あっ…あれ?」わざと大きな声で言うが、足がガックガクだった。一気にあの教室まで走りながら、間にある教室を見回してみるがAがどこにも居ない。
ふと、玄関側の今いる場所とは逆の端っこにある別の校舎との連絡通路に動く人影が見えて吹き出した。「隠れてるつもりなんだろうけどバレバレじゃん!」ひと安心した私は、「Aどこー?」なんて言いつつ来た道を歩いて戻った。
連絡通路まで来るとやはり人影はAで、窓の外・校庭側を見ていた。呼んでも無視している。
ちょっと怖くなったが本気で怒ったかと思い、喋りを止め近づこうとすると「グィャアアアアアアアアア!!!」Aがこちらを向くと同時にものすごい形相で絶叫した。女の子の高い悲鳴じゃなく、ゼイゼイしてるような絶叫って感じの叫びだった。
目も白目剥いてた。(暗いからそう見えたのか分からん)私が立ち止まり固まると、Aはすぐ背を向けてゼイゼイ言いながら別の校舎の方へ走っていった。
向かいの校舎の暗い廊下からゼイゼイ聞こえる。私はもうすでに涙目で、動けずにいるとゼイゼイが止まった。
その時、あの絶叫を聞いた先生が二人、こちらの校舎の階段を上がってきた。「友達がおかしい!」とテンパって説明し、三人でAの方に向かった。
向かう間、携帯のバイブみたいな音がずっとしていて、私は先生のだろうと思っていたがそれはAの声だった。「おい、何してんだ?」先生は少し怒ったようにそう言ってたと思う。
Aはトイレのドアに鼻も口も押し付けて「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」と、白目を剥いてずうーっと言っていた。ちょっとチビった。
先生がドアからひきはがすと同時に、Aがドアに向かって大量に吐いた。暗いからよく見えなかったが、水のようなものだった。
給食食べたはずなんだけど…先生は「うわっ」と声を上げてよけたが、あまりにも大量で廊下がびしょびしょだった。匂いはなんもなかったのが不思議。
その後私は職員室で叱られ、Aの親が先にむかえにきて失神してるAを連れて行った。もちろん私も親に叱られました。
結局、貧血という事になっていた。しかし先生はAのためにあの事を話すな、と言った。
Aには記憶があるのかないのかさえ聞けなかった。でも、わざとな訳は無いだろう…と思っている。