これは先輩の友人が体験した話だ。
その友人にはまだ十代の妹がいた。妹は高校中退した後、ふとしたきっかけでホスト遊びにはまり、ちょっとした借金ができたそうだ。
そしてお決まりのコースよろしく、相手のホストから闇金を紹介され、風俗勤めすることになった。けれど彼女は三日ともたず、切羽詰って家の金に手を出したという。
もともと実家は土建屋をやっていて、バブルの頃は羽振りも良かったそうだが、その頃には、かなり経営も行き詰っていたらしい。金を使い込まれたことがきっかけになり、親の会社は不渡りを出し、ついには倒産したそうだ。
住んでいた土地も追われ、一家離散。彼女は自分のしでかしたことを、自殺することで償った、というか逃げ出したのかもしれない。
妹思いだった兄は、深い悲しみが激しい憤りへと変わり、闇金を紹介したホストに復讐することを誓う。ただ、失意の両親をこれ以上追い詰めるような真似だけはしたくない。
そこで先輩に相談したところ、ちょっと怖い思いをさせてやるか、となったそうだ。ある日の朝早く、酔っ払って店を出るホストを待ち伏せして、先輩ら三人でさらったそうだ。
車のトランクに押し込み、連れて行ったのは山奥の廃墟になったモーテル。荒れ果てた一室に、手錠をかけたままのホストを監禁。
先輩の友人は、あらかじめ準備していたものを取り出し、ホストの前に置いた。「この写真の女の子を覚えてるな」それは亡くなった妹の遺影だった。
「○○はおまえに詫びてもらうまで成仏できないって、夜な夜な枕元に立つんだ」遺影の横に、白い布で包んだ木箱を並べる。「一日かけて謝れ。
今夜枕元に出なかったら、迎えに来てやる」この話がどこまで本当なのか、先輩は分からなかったと言う。ただ、喉の渇きを訴えるホストに、その友人は自らペットボトルの水を与えたそうだ。
その姿は、本当に妹に詫びて欲しいように見えたらしい。翌朝、明け方に三人で集合し、再び山奥の廃墟へと。
みんなかなり緊張しながら、部屋のドアを開けると、・・・そこはもぬけの殻だった。手錠は片方が洗面台の配管にかけられていて、身体の自由はきかないはずだった。
それでも、玩具の手錠。釘一本で簡単に開けられるのかもしれなかった。
財布や携帯は取り上げてあったが、モーテルの目の前は旧道。疎らとはいえ、地元の車の往来はある。
「逃げやがった」先輩らは周りを探すのを諦め、車に戻ることにした。その友人は遺影を脇にして、両手で木箱を持つと、声を上げた。
「えっ、何だこれ」木箱の中に骨壷が入っているものだと、先輩は思っていたそうだが、違ったそうだ。「いや、ただの箱だよ。
納骨は終わってる。びびらせるつもりでさ」友人が白い布をとくと、蓋つきの木箱が現れた。
「中身はからっぽのはずなんだけどな」蓋を開けると、中身はいっぱいの黒土が。「なんだこれ」箱をひっくり返して土を落とすと、拳大の塊が一つ出てきたそうだ。
先輩と友人が間近で確かめようとすると、鼻を突く異臭がしたという。傍らにあった木の枝でつつくと、それはひからびたミイラのように見えた。
「これって胎児じゃねえーのか」先輩と連れが顔を見合わせていると、震える声で友人が言ったそうだ。「妹はあいつを連れてったのかもしれない」二人がぞっとして友人を見ると、さらに言葉を続けた。
「遺書に書いてあった。あいつと子供と、三人で暮らしたかったって」後日、先輩が語ったのは、多分、その友人がホストを殺したんじゃないかな、とのことだった。
先輩も、その友人と連絡が取れなくなって、数年たつという。