洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】猿夢

    2023/02/21 09:00

  • そこは夢の中でした。

    私はよく夢を見ているときに「これは夢だ」と気づくことがあります。この時もそうでした。

    私は薄暗い無人の駅に1人で立っていました。なんだか陰鬱な夢だなぁと感じました。世にも奇妙な物語のホラー回が頭をよぎりました。そんな感じの雰囲気でした。

    そんなことを考えていると突然無人駅にアナウンスが流れました。感情が一切こもっていない単調な男性の声で「まもなく電車がきます。この電車に乗ると恐ろしい体験をしますよ~」、と。

    アナウンス通りすぐに電車がやってきました。それは普通の電車ではなくて遊園地にあるような子供用の電車という感じでした。カラフルな車体にお猿さんの車掌さん。乗客席には数人の男女が座っています。

    おかしな夢だなぁと思いつつもこのあとどうなるんだろうと興味が湧いたのもあり私も電車に乗り込みました。もちろん恐怖心もありましたが、どうせ夢なのだからいざとなれば目を覚ませばいいやと軽く考えていました。今ではその事を本当に後悔しています。

    私は後ろから3番目の席に座りました。肌にはジメジメとした空気が触れます。まるで現実のようにリアルな時間が流れていました。「出発します」とアナウンスが流れ電車は走り出しました。

    これから何が起こるのか不安と期待が入り乱れワクワクしていました。この時はまだテレビドラマを見ているぐらいの気持ちでした。電車がトンネルに入ると辺りは真っ暗になり何も見えなくなります。しばらくするとトンネルを抜け光が戻ります。するとアナウンスが流れました。

    「次は活けづくり~活けづくり~」

    活けづくり?聞き間違えかな?などと疑問に思っていると突然背後から物凄い悲鳴が聞こえてきました。後ろを振り向くと電車の一番後ろに座っていた男性のまわりに濃いグレーの布を被った小人が群がっていました。

    よく見ると小人は包丁で男性の身体を裂いていました。血の匂いが立ち込め、耳が痛くなるほどの大音量の悲鳴が響き渡ります。男性の身体からは次々と内蔵が取り出されていきます。

    私のすぐ後ろには髪の長い女性が座っていました。背後で大騒ぎしているにも関わらず彼女は黙って前を向いているだけでした。悲痛な叫びに気づいていないのでしょうか。

    想像を超える展開に私は混乱しました。なんなんだこの夢は。怖いけど続きが気になりました。もう少しだけ様子を見てから目を覚まそうと思いました。

    気が付くと一番後ろの男性はいなくなっていました。席には赤黒い肉の塊が残っているだけでした。後ろの女性はやはり無表情で前を見ているだけでした。

    「次は抉り出し~抉り出し~」

    また物騒なアナウンスが流れました。今度は二人の小人が現れ、ぎざぎざのスプーンで後ろの女性を目を抉り出し始めました。さきほどまで無表情だった彼女の顔は物凄い形相に変わり、鼓膜が破れるくらいの叫び声をあげます。顔からは眼球が飛び出しています。

    震えが止まりません。もはや好奇心など失せて恐怖しかありません。もうだめ、これ以上は無理。夢を見るのはここまでにしよう。さっさと目を覚まそう。だって次は3番目に座っている私の順番なのだから。私にはどんなアナウンスが流れるのだろうか。それだけ聞いて終わろう。

    「次は挽き肉~挽き肉~」

    最悪だ。このあとの展開が容易に想像できます。夢から覚めよう。

    (夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)

    いつもは目を閉じてこう強く念じると成功します。

    私の膝の上に機械のようなものが置かれる感触がありました。そしてウィーンと回転音が聞こえてきます。目を閉じているので見えませんがおそらく私をミンチにするための道具なのでしょう。

    (夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)と念じ続けます。

    ウィーンという音がだんだん近づいてきます。顔に風を感じます。機械がすぐそこまで迫ってきているのでしょう。もうダメだと思った瞬間、静かになりました。

    私はベッドの上でした。悪夢から抜け出すことができました。汗でビショビショになり目からは涙が出ていました。立ち上がって台所に向かって水を飲んだところでようやく落ち着きを取り戻しました。あれは夢だったんだと自分に言い聞かせました。



    それから4年が過ぎました。大学生になった私はあの夢のことなんてすっかり忘れていました。しかしある夜、あの恐ろしい出来事がまた始まりました。

    「次は抉り出し~抉り出し~」

    あの場面でした。私はすぐに思い出しました。4年前と同じようにすぐ後ろで2人の小人が女性の眼球を抉り出しています。

    私は反射的に危険だと感じすぐに(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)と念じ始めました。


    「次は挽き肉~挽き肉~」

    (夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)

    ウィーンとあの機械音が近づいてきます。

    (やばいやばい!夢よ覚めろ!覚めて!お願い!)

    ふと静かになりました。良かった夢は終わった。ホっとして目を開けようとしたその時。

    「また逃げるんですか~?これが最後ですよ~、次は絶対に逃がしませんからね~」

    あのアナウンスの声がハッキリと聞こえました。目を開けるとベッドの上でした。夢から覚めていました。だけど最後のアナウンスは絶対に夢ではありません。声が聞こえたときは間違いなく現実でした。

    それからあの夢はまだ見ていません。次に見たときはもう逃げられないのでしょう。そのときはショック死するかもしれません。もちろんあっちの世界では挽き肉です。

    私がいったい何をしたのでしょうか。