俺は霊感もないし、そういった経験もそれまではなかった。
だからそのアパートに住んで2年近く立ってからの金縛りなんて、「疲れてるんだな」程度にしか考えなかった。ちょうど人間関係のもつれから精神的にも肉体的にもキてたしね。
けど、2度目の金縛りの時、見ちゃいけないものを見た。始まりは金縛り。
起きて金縛り、じゃなくて圧迫感で目が覚めた。「あーまたか。
体動かないし、呼吸苦しいなー。」とか重いながら、頭を覚醒させるために声を出そうとしたり、手足を動かそうとした。
俺の部屋は小さいながらも2DKで『品』の形に部屋が配置されてた。上の口の左が玄関、右がユニットバス。
俺が寝ていた部屋は左下のところ。玄関から部屋に入るまでには玄関→玄関と部屋のしきり戸→部屋のしきり戸の三つの扉がある。
二つ目だけが引き戸で後は片開き。で、その玄関の扉に違和感がある。
違和感というよりイメージとして誰かがいるのがわかる。施錠は寝る前に確認しているハズだから入れる訳もない。
なのに誰かがいて、しかもそれが手に取るようにわかる。はじめに書いたが、そういった経験は皆無だったので本当にパニックだった。
「来るなー、来るなよー」と必死に願っていたが、どこかで「これは夢だろ。」って考えてる自分もいた。
でもそれは部屋に上がってきた。一歩踏みだし、力無くうつむいたまま引き戸の前に。
音もなく引き戸は開いた。一つ目の部屋に入ると向きを変え、俺がいる部屋の前に止まる。
「来る!」そう思った時。片開きのハズのドアがスライドした。
そして、のぞき込むようにそれの顔と手が見えた。真っ白な顔、長くぼさぼさの髪、真っ黒で落ちくぼんだかのような目、ひび割れて乾燥した唇、がりがりの指。
部屋は暗いのにやけにクリアに見える。「ホラーなんて最近見てないのになんだよコレ!?」夢だろうが現実だろうが入ってきたら拙い。
それは明確に解った。しかし、それはそこにたたずんいるだけで入ってこようとはしなかった。
ただじっと俺を見つめているのだ。今だ続く圧迫感とじっと見つめる何か。
次第にいらだってきた俺は「もう帰れやっ!!」と罵倒するイメージをたたきつけた。でも、帰らない。
俺はいい加減怖さも下がり「金縛りとけたらいなくなるのかなー?息つれぇ・・・」と考えが落ち着きだした。そこで、今まではイメージとしてそれを感じていたのだが、ここで目で見てみる事にした(玄関からずっと怖くて視線をやれなかったのだ)。
何とか動く視線をそれに向けた時だった。視線が合った瞬間、おびえるように隠れるそれ。
そして・・・隣の部屋に行きやがった。「まて、それは明日が怖いだろっ!」そう思っても金縛りは進行形で動けない。
疲れたのか俺はそのまま眠ってしまった。朝起きてみたものは、閉めたはずの俺の部屋と隣の部屋の扉が開いている光景と。
玄関の扉内側の結露と手形ひとつ。その後はそんなこともなくて、なんだったんだこれ?