幼いころの記憶なので、細かいところはよく覚えていないのですが。
僕の実家には大きな土蔵がありました。先祖代代伝わってきた、訳のわからない掛け軸とか、扇子だ壺だとかが、山ほどありました。
ある日、いいかげん古いものは処分しようと、家族総出で整理をしました。出てくる出てくる、もう使い物にならないような花器や、古びた箪笥、なんでこんなもん取っておいたんよ、ってくらい。
僕はもうイヤになって、奥の方で探検をしていました。そして一番奥に、四角い箪笥のようなものがあるのに気がつきました。
「なんだよ、また箪笥かよ・・・」と思いながら、近くに行くと、ちょっと感じが違います。よくよく見ると、どうやら古びた仏壇のようでした。
「と~やん!仏壇があるよ!」父を呼ぶと、「そんなアホな」とか言いながら、奥に入ってきました。そして、「ほんとに・・・仏壇だなあ・・・」父も、土蔵の奥にひっそりと置かれた仏壇に目を丸くしていました。
「誰の仏壇だろなあ?」父は首をかしげながら、閉まっていた扉を開けようとしました。しかし、1センチくらいは開くのですが、それ以上は開かずに、手を離すとすぐに閉まってしまいます。
まるで中から引っ張っているようでした。父も僕も何回かチャレンジしましたが、すぐにイヤになってしまい、そのままにしておきました。
どうせ1日で全部片付くような広さでもなく、またにしようという話になり、この日は作業も終了となりました。疲れもあってか、晩酌の時の父は面白いほど酔っ払っていました。
そして、また仏壇の話になりました。「ありゃなんだろうなあ?」家族のだれも知りません。
そして、一休みして疲れもとれた今なら開くかも?と、よせばいいのに父と僕は懐中電灯片手に、再び土蔵へと行ってみました。昼間とはうって変わって、夜の土蔵は真っ暗でいやな雰囲気です。
父と僕は、仏壇の扉に手をかけました。「せーのっ!」掛け声とともに、力いっぱい取っ手を引くと・・・「うわ!」僕と父は思わずスッ転んでしまいました。
全く抵抗が無く開いたのです。「なんだよ・・・」父はぶつぶつ言いながら立ち上がると、仏壇を覗き込みました。
「ゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!」「あああああ!!」奇妙な鳴き声と、父の悲鳴が一緒に聞こえました。その時の光景は今でもしっかりと覚えています。
仏壇の中から、妙に干からびた、爪の伸びた手が2本、父の頭を抱え込んで、仏壇の中に引っ張りこもうとしているようでした。僕は半泣きになりながら、父に飛びつくと一生懸命引っ張りました。
しばらく、格闘が続いたあと、急に引っ張る力が無くなり、僕と父はまたもや尻餅をついてしまいました。そして、わき目も降らずに家に逃げ帰り、その日は一睡もできませんでした。
夜遅くまで、あの「ゲゲゲゲゲゲ!!!!」という、聞いたこともない声が響いていました。次の日、恐る恐る家族全員で仏壇を覗きに行くと、仏壇は扉が全開のままでした。
中にはなにも入っていませんでした。ただ、仏壇の扉には、内側からひっかいたような後が、幾重にもついていました。
いったいあれは、何だったんでしょうか?