俺の友人で廃虚マニアな奴がいた。
「廃虚に行こうぜ、車でさ」奴(A)は、いきなりそう言って家に来た。「俺恐いの嫌なんだよ」「だーい丈夫だって、恐かねえから」「ウソくせー」そう言いながらもついAの口車に乗ってしまった俺。
Aの車に乗ると「来た来た、来ましたねえ」と別の友人(B)が嬉しそうに言った因にBは霊感がある、こうして俺は「廃虚マニア」「霊感野郎」の2人に囲まれて、T県にある廃虚「Rランド」へと向かった。昼過ぎにT県に着いたのだが、Aは「さてと、まだ時間も早いし山でも行きますかね」などと呑気な事を言うので「いやいや、明るい内に早く行こうって」と、俺が言うと、今度はBが「まぁまぁまぁ、C君(俺の事)、やはり廃虚は夜に行かないと駄目だろう」と阿呆な事を言い放つ「そんなものなのか?」「そんなものです」結局山。
山ではBが余計な霊感を働かせ「あー、いるいるー、あそこのホラ、木の上、ぶら下がってるね、そこの道路の端にも、あー、血だらけだー」俺は「この野郎」と心の中で思いながらなるべくBの指差す方を見ないようにしたAは「B、絶好調だねえ」本当に嬉しそうな声で言った。頂上に着くとAは「さて、早めの晩飯でも食ってこうぜ」B「山で食べるオデンって大好き」俺「晩飯までには帰るつもりないのね」そして頂上のレストランで山菜テンプラ定食を食った後、土産コーナーへ移動。
Aはゴム製のモーニングスターと安全祈願のお守り、Bは「古過ぎて新しい」と、目玉の飛び出るガイコツのキーホルダーとビニール製の刀、俺はオモチャの弓矢セット(矢の先にゴムの吸盤が付いているやつ)を買った。「装備しようぜ装備」「あと1人いればドラクエだな」「ワンワン三銃士だ」馬鹿な事を言いながら夜になるのを待った。
夜、Rランドへ向かった「おー見えた、あれだ」Aが指差す方を見ると、そこには異様な雰囲気の遊園地が見える「え、あれが廃虚なの?」「すげえだろ!」その時点で俺はかなりビビっていた。そして車が遊園地のに近付くとBが「うわうわうわ、あそこの2階見てみ、女の人が立ってるよ!」Aは「来た甲斐あったー」と喜ぶ、俺は「廃虚+霊」の状況に泣きそうになった。
A「じゃあ行くか、あ、一応武器は装備して行けよ、ヤンキーとか浮浪者がいるかもしれないからな」B「霊より生きた人間の方が恐いからね」2人は片手に武器、もう片方の手に懐中電灯を握りしめて降りる。俺は車の中に残ってようと思ったが、1人になる方が恐いので一緒に車を降りた。
この時点での各々の装備A・武器-モーニングスターゴム製だが先に付いたトゲ付の鉄球はかなりのダメージを与えられる。片手で持てるので懐中電灯とのダブル装備が可能懐中電灯・かなりの範囲を照らす事が出来るB・武器-ビニール製の刀叩き付けるのには不向きだか突き刺せばかなりのダメージを与えられる。
片手で持てるので懐中電灯とのダブル装備が可能懐中電灯・かなりの範囲を照らす事が出来る俺・武器-ビニール製の弓矢肝心の矢の先がゴム吸盤の為ダメージは無いに等しい。しかも両手を使わなければ攻撃出来ない。
さらに矢は1本懐中電灯を持って来なかったので友人の車のキーに付いているレーザーポインター?(暗闇でもカギ穴が 見つかりやすいやつ)かなりの範囲が暗闇になる武器のチョイスに失望した俺を、2人は「照らす範囲、狭っ!」「その格好笑えるんですけど」とゲラゲラ笑っていたよ。中央には2階建ての建物、右手にはボロボロになったジェットコースター等の乗り物、左手にはドーム状の建物がある。
初めに左手にあるドーム状の建物に入った。どうやらここは室内プールか温泉だったようで、別にこれといった収穫は無かった。
次に真ん中の建物、Bが2階の窓から女が見えたと言うアレだ。建物の1階の中に入ると真ん中に大きな穴が開いていて、中を覗くと下は池のようになっている。
一応地下に降りる階段もあるが途中からは水没している為降りる事は出来ない。大きな穴を覗きながらAと俺は「うお、恐ぇ~、この穴に落ちたら最後だな」「無気味だなー」するとBが「水ん中よーく見てみ?可哀想になー、この穴に捨てられちゃったんだろうな。
まだ子供だよ?一生懸命這い上がろうとしてるんだろうなー。余りここには長居しない方がいいかもな」と言った瞬間、上の階からドンドンドン!っと叩き付けるような音が!「何何何!」俺は上から落ちて来るホコリを浴びながら弓矢を構えた。
「出て行けってさ」Bは言う「出て行こう」俺が言う、しかしAは廃虚マニアとしての血が、Bは霊が見える安心感からか出て行こうとはしない。結局俺は半泣きになりながらもAの袖にしがみついて一緒に行動するハメに。
その間も2階からは「ダンッ、ドンドンドン・・」と何かが歩き回る音がする。その時点で俺は頭がクラクラして、視界もなんだか狭くなってる気がした「倒れたら置いていくからな」Aが励ます。
「いいか、ゆっくり上がるなよ、一気に行くぞ」Bが2階へと続く階段の手前で言う。「ゆっくり行くと恐怖がだんだんと強くなるからな。
勢いで恐怖を打ち消すんだ、行くぞー!」その「行くぞー!」の瞬間、なぜかアントニオ猪木を思い出し、なんだかおかしくて少し気が楽になったよBの言う通り3人で一気に階段を駆け上がった。俺は一番後ろだったので余り恐くは無い。
そして2階に到着。が、誰も居ない。
静まり返っている。AとBは部屋中を懐中電灯で照らすが、ただモワモワとホコリが舞っているだけだ「さっきまで気配はあったんだけどな」Bは残念そうに言うが、俺にしたら嬉しい事だった。
「なるほどなあ」とAとBはズンズンと先へ進んで行ったので俺はその後を付いて行く。そして部屋の真ん中辺りに来た時だろうか。
下の階から「ダンドンダンドンダンドン!」と、物凄い勢いで階段を上がって来る音が。その時点で階段に一番近いのは俺!何も言わず逃げるAとB!その後を追う俺!後ろからは「ヒュ~~、ヒュ~~」声だか音だかがわからないものが聞こえる。
Bが叫ぶ「やべやべやべ!走って来るのはやばい!建物から出るぞ!」俺の真後ろでは「んふー、んふー」と鼻息のような音。だが建物から出た瞬間それは聞こえなくなったような気がした。
実際はそんな余裕は無かったと思う。とにかく建物を出た所でAとBが待っていた「ああ、やっぱり奴は建物からは出られないみたい」Bが言うと、その言葉を聞いたAは「惜しかったなあ。
俺の武器をお見舞いしてやりたかったのに」と、モーニングスターをブンブン回しはじめた。が、回す勢いが良過ぎて鎖の部分が切れて鉄球は明後日の方向へ飛んでいてしまった。
「こうなったらCの弓で霊を攻撃しろ」「俺は絶対嫌だ」「じゃあ俺が」Aは俺の弓矢を取り上げて思いきり弓を引っ張る。が、引っ張り過ぎて糸の部分が切れてしまった。
Aの手元に残ったのは鉄球の無い棒と糸の切れた弓矢「これじゃスライムも倒せねぇ」Aは悔しそうな声で言う。「ま、とにかく早く帰ろう」とのBの意見に大賛成した俺は素早く車に乗り込んだ。
そして全員が車に乗った時「ガンガンガンガンガン!」と建物の2階の窓枠が激しく揺れている「刀!刀!」「いや、届かないから」AとBは楽しそうにゲラゲラ笑いながら言う。そうして俺にとっての初霊体験?の夜は終わった。
帰りの高速でBが「また来ようね」と言ったので固く断った。現在俺の頭の中では「Bは偽霊能者で狂言野郎」「あの建物には浮浪者かイタズラ好きのヤンキーがいて俺達を驚かした」「窓枠は風で揺れたか人が動かした」てことで解決しました。