大阪南部の公団に住んでた頃の話です。
ある日、仕事から家のそばまで帰ってくると、何だか人だかりがして騒がしく、あたり一面ものすごく嫌な匂いがたちこめていました。道路にはテレビ局のワゴン車が来ていたので、慌てて自分の家に帰って家族に確認すると私たちが住んでいる棟のすぐ近くの棟で火事があって一部屋全焼したということでした。
ニュースにもなったので、覚えている人もいるかもしれません。テレビでもやっていました。
ローカルニュースかもしれないけど…火事にあった家は5階建ての4階で、四人兄弟のうち子供が二人亡くなったそうでした。母親の留守中にストーブから出火、小学生だった上の二人は下から呼ぶ両親や消防隊員の呼びかけにより飛び降りて無事救出。
亡くなったのはその下の3歳くらいの子と赤ちゃんだったのですが…3歳の子は、窓の柵を握ったまま恐怖でその場から動けず(手が溶けて柵にくっついたのでは?とも言われていました)そのまま火に飲まれてしまったそうです。両親や野次馬の目の前で。
その後、そのまま消防隊が水をかけたので、その子は柵をつかんだそのままの姿勢で物凄い勢いで部屋の中に押し流されたそうです。(母や近所の人は、その時にまだ子供は生きていたんじゃないか?と言っていました。
)赤ちゃんは、布団に寝たまま…だったそうです。その両親は宗教上の理由から堕胎しない主義だったので、狭い団地に住みながらも兄弟が多かったようなのですが…そんな光景を目の前で見せられてどんなにショックだったことか。
その火事は昼間起こったようですが、色んなものが焼けた凄まじい匂いは次の日まで消えませんでした。その時干していた洗濯物は、もう二度と着る気がしなかったです。
これだけで充分怖いので、以下の話は蛇足になるかもしれません。その日からしばらく経った明け方、私はふと目が醒めて薄明るくなってきた部屋を眺めながら、さっきまで見た夢のことを考えました。
何だか誰かと押し問答していたような気がします。「何だっけ…ああ、あの子が遊んでってしつこく言うから…」今となっては夢の内容は思い出せないのですが、そう思ったことだけ覚えています。
さて、もう一度寝ようと思ったその時、「ねぇ、遊ぼうってばー」という子供の声が聞こえ、私は「もう!しつこい!後でって言ってるでしょ!」と声を荒げて答えました。何故か何の迷いもなく答えてしまってから、え?私誰としゃべってんの?と我に返りました。
見えるのは寝ている部屋の天井、考えるまでもなく家族に子供はいない。ん?今の声って…とゾっとする間もなく、布団の中にある私の手に何かがぴとっと触ってきました。
小さな、子供の手。うわぁ、と布団を跳ね除けようとしたけど、体が動きません。
触られているところから徐々に、全身が固まっていくのが分かりました。結局、その後どのくらいの時間かわからないですが、その手の感触がある間金縛りは解けませんでした。
どこかから朝のテレビ番組のオープニングが聞こえて来た時、ふっと手はいなくなりました。今思えば、直接見てはいないものの、身近で起こった火事の話はかなりショックだったこともあり潜在意識がそんな夢を見せたんだろうな、と思います。
それにして、私は子供好きなので夢とはいえ遊ぼうと言われてそんなに邪険に追っ払うことなんか普段はないんです。明らかに、「遊ぶと引っ張るぞ~」みたいな感じではなかったし、それを思うと可哀相なことをしたなあと思います。
遊びたかっただけだったんだろうから、遊んであげればよかった。ただの私の夢の中の話であったとしても、です。