俺の家の近くに「ミコダイの二重垣」という場所がある。
昼でも暗く、薄気味悪いところだ。ある夜、若者たちが集まって酒を飲んでいた。
するとある者が肝試しをしよう、と言い出した。そのうちに誰かが「ミコダイの二重垣根なんかどうだろうか、あそこは幽霊が出るというし、肝試しにはもってこいだ」と言った。
ところがいざとなると誰も怖がって行きたがらない。誰も名乗りを上げないので、結局くじ引きをしたくじを引いたのは仲間の中でも一番勇気がある男だった。
彼は証拠として皆の名前を書いた杭を打ちつけてくることを約束し、ミコダイの二重垣へと向かった。そこは森をいくつか抜けたところにあり、道も暗くて男は何度も転びそうになった。
やっとのことで男は二重垣にたどり着いた。なるほど、化け物でも出そうな雰囲気である。
月明かりも届かない、深い森であるため、あたりは真っ暗闇であり、ますます不気味さを増していた。男は適当な場所を見つけると「やれやれ、少し休もうか」と、しばらく腰掛けた。
そして杭を打ちつけると立ち上がった。・・・が誰かが服の裾をつかんで離さない。
男は思い切り引っ張ってみるが、それでも離さない。「まさか本当に幽霊がでたか」さすがの男も怖くなって振り返ったが、そこには暗闇があるだけである。
「助けて助けて助けて」男は泣きながらもがいたが、それでもその主は裾を離そうとはしなかった。朝になり、戻ってこない男を心配し、若者たちは二重垣に男を探しに行った。
男は自分の服の裾に、杭を打ちつけて死んでいた。若者たちは、昨夜何が男の身に起こったか理解した。
それ以来、夜に二重垣に行くと、裾に杭を打ち込んで、狂ったように泣き叫ぶ男の幽霊が現れるという。助けて、助けて、と。