友人から聞いた話。
面倒くさいんで一人称で書く。
その日のバンドの練習は夜遅くまでかかった。
明日が文化祭だからだ。
誰ともなしに
「腹が減った」
ということになった。
近くにコンビニがあるんで
そこにいくつもりらしい。
俺は夕飯は食ってきてしまっていたので
あとの三人が買い物に行き俺は留守番していることにした。
楽器を置いて携帯をいじってると何か妙な音が聞こえてくる。
どうやら横にあるアンプからみたいだ。
原理はよくわからないんだが
他の部屋の音を何かが拾って
それがアンプから流れてくるというのはよくある。
そういう時は自分らのことは高く棚にあげて
「なんだこの曲w」
とか
「ボーカルがイマイチw」
とか茶化すもんだ。
そのときも
「どれどれ」なんて思いながら
アンプに耳を近付けた。
「………………………………ぁぁぁ…」
小さくてよく聞こえない。
だけど女の声だというのはわかる。
アンプのボリュームを調節してもあんまり変わらないし、
聞き取ることを諦めて椅子に座ろうとした時、
何か違和感のあるものが視界に入った。
そのスタジオのドアには
外から中が見えるように窓がついていたんだが
そこから若い女がこっちを見ていた。
覗いてるなんていうもんじゃなくて
はっきりと俺のことを見ていた。
「え?」
と思ったが
全く無表情のその顔からはなんにも読み取れない。
ただ、小さく口を開けているのだけはわかった。
目が合ってもちっとも動じる様子のないその態度に少しイラついた俺が
注意しようと席をたった瞬間、
それまでぼんやりと俺を見ているだけだった目を裂けんばかりに大きく見開き、
小さく開いているだけだった口をこれもまた裂けんばかりに大きく開いた。
それと同時に隣にあるアンプから
ボリュームをMAXにしたってここまででるかというくらいの音量で
「あああああああああああああああぁぁぎぎぐぐぐぅぅぅ!!!!」
という叫び声が部屋中に響きわたった。
あれは隣の部屋なんかじゃない、あの女の声だ。
防音になっているのになんで?
そんなことよりなんでアンプから?
ボリュームを下げても、
全ての楽器のシールドを取っても、
アンプのコンセントを引っこ抜いても声は止まない。
おろおろしながら窓を見ると
女は更に凄い形相でドアにへばりついてる。
…中に入ろうとしている!!
「ぐぐぐぅぅぅぎぁあああああああああっっっ!!!」
いきなり周りが真っ暗になった。
腰を抜かした俺は頭を抱えて
床にうずくまってしまった。
「何してんの?」
という呼び掛けにハッと我にかえると、
三人が俺を見下ろしていた。
窓に目をやるとあの女はいなくなっていた。
それだけのことだった。
その後祟られたということもなく
普通に暮らしている。
一体なんだったんだろう。
よく市販のCDやレコードに
入れた筈のない声や物音が入っているなんていう話を聞くが
あれは電気機器が出す電磁波みたいなものが霊の波長と合ってしまい
結果霊を呼び出してしまうかららしい。
あれもそういうたぐいだったのだろうか。