あれは当時俺が山奥の大学に通っていたときのこと。
二月の終わりごろだったか、春休みに入ったため実家に帰省しようと車を走らせていた。それまでは必ず高速を利用していたのだが、そのときは先立つものに困窮していて、初めて一般道で帰った。
広域の地図を購入し検討した結果、国道を走るより山間部を抜けたほうが近道と思い、その山道を走らせているときにそれは起こった。まぁ実際には近道でも曲がりくねった山間部を30㌔で走るより、整備された国道を60㌔で走るほうが早く着くってことに後に気付くのだが。
曲がりくねって先の見通せない深夜の山道を、急いでもいないのに無駄に猛スピードで果敢にアタックしていたとき、ふいに聞こえた。「ダディ・・・ビーケアフリー!」??・・・外国人の女の子?反射的にブレーキを踏んだ。
車を降りて辺りを見回すが、目に入るのはこれ以上ないくらいの闇だけ。車のライトを消してしまえば自分が目を開けているのか閉じているのかさえ分からなくなる。
地図とにらめっこしても、標識さえほとんどない山道では自分がどの辺りにいるのかもよく分からない。確かなことはもう一時間近く山道を走っていることだけ。
もはや引き返すには遅い。何らかの警告かとも思い、しばしハイビームでのろのろ運転を続けるも、特に何もない、先ほどの少女の声も聞こえない。
だが10分ほど経った頃、また聞こえた。「ダディ・・・ビーケアフリー!」恐怖心を紛らわすために大音量でMDをかけていたのにそれでも聞こえる。
しかしもうそんなのにはいちいち構っていられない。走行を続けていると、「ダディ・・・ビーケアフリー!ダディ・・・ビーケアフリー!ダディ・・・ビーケアフダディ・・・ビーダディダディダディダディダディダダダダダダダダダダ・・・・・・・・・!!」どんどん声が大きくなる!もう無理!急ブレーキ!とにかくよく分からないけど、この道はきっと良くない!そう感じて狭い山道で何度も切り返しながら転回、来た道を戻った。
すると不思議なことに狂ったように聞こえていた少女の声がピタリとやみ、時間は掛かったものの無事に実家に着けた。どうしてもあの道を通ってほしくない理由でもあったのか?