何年か前。
古着屋さんでコートを試着した。袖を通して着てみると、意外に似合うような気がした。
「りょうじのコート着ないでよ!」突然ヒステリックな女の声が聞こえた。俺の目の前のすがた身鏡に、俺の腰ぐらいから女がしがみついてた。
うわっ!と思って、試着室から転げ出ると、店員さんが驚いて俺のほうを見た。恥ずかしいとか、そんな事はそのとき思いもしなかった。
女がいたほうにびっくりしたから。でも、コートにしがみつく女はいなかった。
恐る恐る試着室のカーテンの中をのぞいてもいなかった。俺はコートをあわてて元のあったところに並べ直して、すぐその店を出た。
しばらく怖かったけど、あの時以外あの女は現れてない。で、俺は中古品が怖くなって、古本さえも買えなくなってしまった。