3年程前の夏、朝早く出勤しなくてはいけない日があって5時頃、駐車場に向かったんだ。
車を停めてある月極駐車場の隣が公園なんだけどふと見ると、真ん中辺りのベンチに真っ赤なスーツを着た人が座っている。なんか変な人だなぁ、とは思ったが急いでいたので、チラっと見ただけで駐車場の敷地に入ろうとした。
「すいません。今何時ですか?」突然背後から女の人の声が・・・。
振向くと、その真っ赤なスーツを着ているんだ。一瞬、背中がゾクっとした。
いつの間にこんなに近づいてきたんだ?でも、顔は普通に人にものを尋ねるような表情だった。困ったような、申し訳ないような・・・。
「ああ、今5時を少し回ったくらいですよ。」俺も腕時計を見て、そう答えた。
するとその女は急に、にやぁ~と表情を崩した。「あなた・・・・だ・・・・ぶ、あ・・・・ない」何かつぶやくように言うと、くるっと踵を返して公園の方へ戻ったんだ。
視線をふと、下に移して焦ったよ。丁度、女の人が立っていたあたりのアスファルトに、大量の血がこぼれている。
今しがたこぼれ落ちたようで、しかも鉄のような匂いが鼻をついた。俺はもう慌てて車に飛び乗り、急発進させたんだ。
それから会社に着くまで、何かから逃げるように車を走らせた。よく事故を起こさずに済んだと思うと不思議だ。
会社に着き車から降りようとしたとき、助手席のシートに目がいった。白い紙切れが置いてある。
開いてみるとこう書いてあった。「あなたはだいじょうぶ。
あなたじゃない。」あの女の人がつぶやいていた言葉だった。
その日、まだ明るいうちに家に帰ることが出来た。恐る恐る駐車場まで戻ったんだけど血の跡は一切残っていなかった。
それ以来、その女の人を見ていない。でももし、俺が「あなた」だったなら、どうなっていたのか・・・。
彼女は誰を探しているのか、まだ何処かで探しているのかもしれない。