ある日の夕方・・・。
砂浜を散歩していたんだ。太陽が沈むのには間があって、周りの風景は全て茜色に染まっている。
恐いくらい鮮やかな色だった。そんな中、ゆっくりした足どりで歩くのはいい気分だった。
俺はこんな素晴らしい夕景に満足していたんだけど・・・。30分程歩くと、防波堤に出た。
海に向かってずっと延びている岸壁、その先端に灯台がある。ふと、その少し手前に誰かが前かがみになっている人が目に入った。
白い服を着た子供のようだ。どうも様子がおかしい。
苦しいのか肩で大きく息をしているのがはっきりわかる。小走りで子供に近づいていった。
とにかく具合が悪いのなら、手助けしないと・・・。「おい!どうした!!具合悪いのか!?」子供の肩の辺りを叩いた。
するとその子供が俺の方を向いたんだ。その瞬間・・・。
すーっと辺りが真っ暗になってしまったんだ。今まで茜色に染まっていた風景が、薄墨色も群青色も飛び越えて真っ暗闇・・・。
岸壁に打ちつける波の音しか聴こえない。子供が何処にいるのかも見えない。
とにかく、尋常の暗さじゃなかった。いくら時間が経っても目が慣れないんだ。
恐ろしくなって、思わず地べたにしがみ付いていた。しばらく、動けないでいると、やがて前方にチカチカと黄色い光が2つ見え始めた。
遠くの光じゃない。それどころかすぐ眼前で光っている。
「フー、フー、フー・・・」息の音が聞こえる。ズルッ、ズルッ・・・と何かを引きずる音も・・・。
そして・・・。何かヌルっとしたものが俺の顔に触った。
その瞬間「こいつの正体をみてやらなきゃあ」なんて思ったんだ。恐ろしくて仕方が無いのに・・・。
はいつくばっていた両手をやっとの思いで地べたから引き剥がし前の方、黄色い光の点滅する方へ突き出した。「えっ!?」俺はバランスを崩して、そのまま岸壁からまっさかさまに海に落ちそうになった。
何も無いんだ。光も音も聞こえているのに、手はその光のもとに触れない。
血液が全部下に下がったような、嫌な気分におそわれた。もう、手探りで砂浜側に戻ろう。
そう思って再び地べたに手を付いた。「ねぇ、僕の顔見てくんないかな?」耳元ではっきり聞こえた声。
それは子供の声だった。何故か薄っすらと明るくなっていて、前方に砂浜が見えた。
でも、視界のすみに人間の顔がある。白い服も見える。
俺は、すこし視線を右にずらした。その顔を見た瞬間、物凄く後悔した。
振り切って逃げるべきだったんだ。その子供は・・・いや、子供だと思ったのは・・・グズグズに腐乱して膨張した水死体だったんだ。