洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】出生の秘密

    2024/11/28 18:00

  • 自慢じゃないが私は憑かれやすいまたは『良くないモノ』を寄せつけやすい体質らしい。

    昔から婆さんにお守りを持たされ続けてきた。何でお守りなんか持たされるのか、子供心に不思議でならなかったが14歳の誕生日、祖父母両親から初めてこんな話を聞かされた。

    (見てるワケ無いですが見たかのように書きます)私が生まれてくる前、母親の胎ん中に居た時の話だ。跡継ぎになる男の子を授かったと親戚一同集まってお祝いがあった。

    妊娠8ヶ月を迎えていた身重に大事があってはいけないと、祖母は母を連れて奥の間、仏壇のある部屋で休んでいたそうだ。夜も更け、殆どの親類が帰った頃、奥の間から真っ青な顔をした祖母が飛び出してきて「ヒロ子さんが(母の名前)、ヒロ子さんがおかしい」と言った。

    続けて襖の間から母がフラフラっと現れた。しわがれた声で『敏行ぃ― 敏行ぃ――』としきりに呼ぶ。

    いつものヒロ子とは思えない老人の声だった。祖父には――敏行には声の主が誰か分ったのだろう。

    ボロボロ涙を流しながら「カツゴロウ爺、カツゴロウ爺か!」といった。母は老人の声で正座をする祖父に言い聞かせ始めた(方言と昔言葉が頻出するので訳略します。

    )『ウチの一族は死んでもまともに成仏できない』という事、『【タツミ】の代に作った恨み、神罰が未だに消えていない』という事、『その恨み・災厄は生まれてくる子に降りかかる』という事、『この子は今後大変な苦労をするかもしれんが、どうか守ってやって欲しい』という事を告げた。ひとしきり話した後最後に『がんぐらぎぃなかんきぃふごあるげえ、ごっだらにもたせぇ』と言い、母はフッと力が抜けたようにその場に倒れた。

    眼覚めた母は自分が喋った事は一切覚えていなかったとの事だった。祖父は言った。

    母に降りてきたのは「勝吾郎」祖父の祖父、つまり私の曾爺さんで禍根の主【タツミ】は祖父の6代目の先祖、私のひいひいひいひいひい曾爺さんに当たる人物だそうだ。地元では昔から土着神を崇めていて、私の先祖は代々神事をまとめる司祭だったが件の【タツミ】という男は相当の外道で、司任してからは権力と金で女性を食い物にし、反抗する者は村八分にしたり供物と称して殺してしまった。

    その上信仰心など全く無く、神事もおろそかにする有様だった。さて、その土着神は女の神様なわけで神罰かどうかは分からないがしばらくして、地域で凶作が続いたり女子が全然生まれなくなったりした。

    ある歳の収穫祭の日。怒った村人は寄って集って司祭を――タツミを殴り殺してしまった。

    無論、供物としてだ。その後一族は勿論、地域の者誰一人として司祭を継ごうという者は現れず、管理する者もおらず、ヤシロは荒れ果て、大正に入って国家政策で国津神系の神社が建つまで200年間、地元で神事は行われなかった。

    どういうワケか分からないが先祖のツケが私に降りかかるというのだ迷惑な話である。話は戻って母が、カツゴロウが最後に言った事について祖父は語った。

    『がんぐらぎぃなかんきぃふごあるげえ、ごっだらにもたせぇ』地元の方言で『岩倉の中に木の札があるから、生まれてくる子供に持たせろ』という意味との事だ。家には長い間使われていない岩壁をくりぬいて作られた蔵がある。

    後日祖父が南京錠を外して中を調べたところ、神棚に襤褸切れを見つけた。油紙に包まれたそれは木片、札のようにも見えるそれには2つの文字が刻まれていた。

    【△□】(伏字)  ...私の名前だ。両親はそれまで決めていた名前を諦め、札に書かれていた2文字を私の名にしたのだ。

    私は始めて知った同年代の子供と比べて明らかに自分の名前が古臭い理由を。地元の大人が私を見ると顔をしかめるワケを。

    その木片を祖父が削り出し、祖母が祝詞(のりと)を書いたモノが、私が子供の頃から持たされ続け今もこうして持っているお守りなのだと。祖父は言った生まれてすぐ腸閉塞で死にかけたり、沼に溺れてしにかけたりいろいろあったが今も無事で居るのはそのお守りのおかげだと。

    忘れずにこれからも持つように。そして、「この歳まで無事で生きていてくれて本当にありがとう」と爺さんは言った。

    当時中学生のうす味な脳みそに全てが理解できるワケがなかったが爺さんが死んだ今では祖父の言っていた事を一句一句噛み締めている。――そんな話を、彼女に話している。

    祖父の葬式が終わって数日後だ。こういった類の話に理解のある彼女とはいえ引く事を承知で話している。

    何故か無性に伝えたくなったのだ。彼女は想像を裏切り『..そっか、そんな感じだと思った』と苦笑いしながら答えた。

    「?」『この前ね、枕元にヨボヨボのお爺さんが立って、言うちょね【あの子を守ってやってくれ】って。』今もあのお守りは肌身離さず持っている。

    もう書かれている字もかすれて見えなくなってるが実家に帰る度に婆さんが必ず言う言葉を肝に命じて。『だらぁ、お守り持っとるか?なくすなよ、失さしたら  死ぬぞ?』