九州南部の、いくつかの役所が入居しているとある合同庁舎。
隣接していた空地は、戦時中に空襲を受けた女学校の跡地、といった噂があったが、この空地にスーパーマーケットが建てられた頃から、合同庁舎に奇怪な事件が起こるようになった。入居している官庁の所長室に、ある日ふらりと見知らぬ女性が訪れた。
昼間の事である。所長はソファをすすめて、話を聞いたが、見たところ若そうな女性なのに、 「この近くには以前○○の工場があった」などと、ずいぶん昔の話をするので妙な気がしていた。
所長は部屋から顔を出して、庶務係の職員に「お茶をふたつくれ」と、頼んだ。すると、職員は怪訝そうな顔をして、「どなたの分でしょう…?」と訊いた。
何をわかりきったことを、と所長が部屋の中を振り返ると、最前の女性はかき消すようにいなくなっていた。所長室に入るには、庶務担当の前を通らなければならないのだが、誰に訊いてもそのような女性は通らなかったとのことであった。
同じ庁舎で、夜間二人の職員が宿直室に泊まりこんでいた時のこと。布団をかぶって寝ていると、何者かが、布団の上を乱暴に歩き、職員を踏みつけにして通って行った。
大勢の人間のようであったが、闇の中のことであり、何者であるか確かめることはできなかった。謎の行進はしばらく続いたが、やがてぷっつりと気配が消えた。
おそるおそる顔を出して見回してみると、部屋の中には二人以外誰もいなかった。その間二人は生きた心地もしなかったそうである。
最後の話は霊的現象としては少し疑わしい。夜間、最終退庁者になった職員が、エレベーターで1階に降り、施錠して外に出たのだが、忘れ物をしたのに気付き、中に戻った。
すると、当然1階に停止しているはずのエレベーターが、なぜか最上階に上がっていたという。