ある日、大学に通っていた彼女が言った。
「あや子(彼女の友達。名前は仮)ねぇ、いまダイエットしてんだって」彼女の友達(あや子)は、エクササイズでダイエットにはまっているらしい。
「で、うまくいってるの?」「うん、それがね・・・」体重も体型もいまだに変化ないという。その代わり・・・「最近何も食べてないみたい。
この前会ったら、なんだか上の空で・・・目の焦点が合ってないのよ。ちょっと心配。
」3日後、あや子ちゃんの母親が実家で亡くなったという。あや子ちゃんの家庭は、母子家庭で母と弟は遠く離れた実家に住んでいた。
母親の遺体には、脳がなかったという。医者もはっきりした死因はわからず、直接的な原因は、やはり頭蓋骨のなかに脳組織がなかったことだという。
頭蓋骨に異常はなく脳を取り出したような穴なども、見当たらなかった。その一週間後、あや子ちゃんの弟も亡くなった。
同じように脳がなかった。あや子ちゃん親子たちは大変仲がいいと評判だった。
「あたしね、あや子に関係あると思うの。ねぇ、一緒にあや子の部屋に来てくれない?」そう言われてあまり乗り気がしなかった。
彼女はちょっとおせっかいなうえ、関わることといったら、決まって呪いとか心霊とかそういうたぐいなのだ。彼女はそういうのに詳しいし、何度か友達を助けてきた。
たぶん今回のも呪いか何かだと踏んだのだろう。心細いので、タケシ(おれの友達、仮)を呼んで一緒にあや子ちゃんの部屋に行った。
あや子ちゃんは確かに、目が死んだようだった。無理もない、愛する家族が立て続けに死んだのだ。
部屋に入ると、テレビにエクササイズをしている男女の映像が映っていた。通販DVDで、それを見ながらエクササイズをすると痩せる、といったものだった。
通販ものに珍しく、たいていそういうのは外国人が映っているものだが、アジア系の男女が踊っていた。その映像をみたとたん、彼女が叫んだ。
「ちょっと!あや子!なんなのよコレ!?」彼女の動揺は半端じゃなかった。DVDをデッキから取り出し、みんなの目の前でディスクを割ってしまった。
「おい!何すんだよ!」そのあと彼女を何とか落ち着かせて、話を聞くと、あのエクササイズはある儀式の踊りなのだという。彼女は言った。
「・・・話だけでは知ってたんだけど、初めて見たわ。あれって、言ってみれば呪いのたぐいなのよ。
映像で床に大きな丸とマークがあったでしょ?アレ、魔方陣みたいなものなの。人を呪い殺すものなの。
しかも自分が一番大切に思っている人を・・・。コレ、危険よ。
」あや子ちゃんは、知らずにDVDを購入し、知らずに呪いを行わされていたわけだ。しかも、呪う対象は、愛する自分の母と弟・・・。
「は“あぁぁぁぁぁぁっっつつつ!」あや子ちゃんが突然絶叫し、泡を吹いてその場に倒れた。病院に運ばれたが、即死だった。
遺体解剖の結果、彼女の胃と腸からヒトの脳組織が発見された。~後日談~あのDVDを見つけた。
しかも、彼女の棚から。ジャケットは違うものに変えられていて、簡単に見つからないようになっていた。
おれは彼女に問い詰めた。「なんでお前が持ってんだよ!?」「最近はじめたの。
ダイエット。DVD、買っちゃった。
」映像は、踊っている人物と床のマークが違うものの、踊りはほとんど同じだった。「コレ、お前が危険だって言ってたやつじゃんか!」「え、そう?気づかなかった・・・」彼女は少し上の空だった。
ソワソワしだし、嘘をついているとわかった。「お前・・・まさかコレ見て踊ってないよな・・・?」なぜ彼女が持っているのか、いったい何のDVDなのか、しつこく問い詰めると、彼女は言った。
「怒らないでね・・・ここにあるのは違うやつなの。あや子のとは違って、自分が嫌いになった人間を呪い殺すものなの。
」とつぜん携帯が鳴った。おれの携帯だ。
「おい!大変だ。」友達からだ。
「タケシが死んだ!あんなに昨日まで元気だったのに!」頭が・・・白くなった。彼女がうつむいて言った。
「ごめんね、黙ってたけど、タケシくんと浮気してた。でも、あたしは遊びだったのにあいつったらしつこくてさ。
嫌いなのよ、しつこい人って。」「お前・・・まさかタケシを」「う、ごめん・・・」彼女は手で口を押さえながら、小さくゲップをした。
臭いが漂ってくる。胃から臭う異様な、腐ったようなニオイ。
「あたしを許して。許して。
・・・ちゃんと一番好きなのは、あなただから。」ふと彼女ごしに、向こうの机に目がいった。
あや子ちゃんが持っていたDVDのジャケットがある。一番大切な人間を呪い殺す・・・。
彼女はニッコリと笑った。目が、焦点が合っていなかった。
これからおれは、どうすればいいんだろう。