和歌山の三畳敷でかなりギリギリのところまで行って、波を見物していた。
まだ中学生のときだったかな。かなり遠く離れたところにいる人がわっと逃げ出したんだ。
びっくりして振り返ると、まだ遠いんだけど、結構高い波がやってきてた。確実に俺らの呑み込まれる位置ぐらい。
スゲーあせった。今から走って逃げても絶対間に合わないし、どうしようってオロオロしていたら、弟が、何を思ったのかだーっと海岸のほう、波の近くに走っていくんだよ。
エッって思って、慌ててあとを追うと、「これ!これにつかまって!」って、三畳敷に一体化して突き出た岩?をギューって抱きしめていた。俺も慌てて真似をして、大きく息を吸い込んで、息を止めた。
波は大きくかぶった。全身が波に飲み込まれて、そのあと、ものすごい力で沖のほうに戻っていった。
返り波っていうのかな、真っ白なスープみたいになった波。あれ、ものすごい力だよ。
例えば海難事故に遭う怪談で、波を無数の小さな手によく喩えられる(ていうか小さい手そのものだったっていうか)ことが多いけど、本当にそう。ひっぱられる。
ここで手を離したらマジやばいと思って、とにかくもう必死で岩をつかんでた。波がひいたら全身びしょ濡れ。
そのへんにいた人は飲み込まれた俺らを見て死んだかも!と思ったらしくって、注目の的だった。それにしても海コエー。
弟いなかったら俺確実に逃げ遅れて死んでたぜ。