私の幼なじみSの話です。
それはSが小学生だった頃・・・Sは早くに父を亡くし、母と二人で暮らしていた。その頃母には新しい恋人ができており、たびたびSの家に来ていた。
母はSが学校から帰ってくると、千円札を渡し、「暗くなったら帰ってきなさい」と言い、家を追い出してしまった。そんな事が何度か続いた。
Sはそれがたまらなく嫌だったそうだ。Sの母親の噂は町内に広まっており、毎日昼から男を連れ込んでいるといった内容だった。
そのせいかSは小学校では「淫売の娘」と言われ虐められていた。私も言葉の意味は分からなかったが、周りが言っているので同じように虐めていた。
そんな時Sは、本当の父の墓の前で、千代紙を折って遊んでいたそうだ。Sは千代紙に母や、母の新しい恋人、学校でいじめるイヤなヤツの名前を書き、それを奴さんの形に折り、手の部分を破ったり、マッチで火をつけて燃やすといった遊びをしていた、ささやかな復讐だ。
その遊びをしている時は、不思議と心が落ち着いたという。やがてSの母親はその恋人と再婚した。
二人は新しい子供を作らず、Sを可愛がってくれた。「今はあの頃が嘘のように幸せ」Sはそう言って私に笑った。
その一年後、Sの両親が交通事故に遭って亡くなった。見晴らしの良い幹線道路で、大型車と正面衝突だったらしい。
即死だったそうだ。しばらくSが学校に出てこなかったので、家も近いと言うこともあり私は様子を見に行った。
Sは薄暗い部屋、両親の遺影に向かい、「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝り続けていた。私はSに「何故謝るの?事故なんだから仕方ないじゃない」と言うと、Sは「私が殺したの、子供の頃、お父さんのお墓の前で・・・」と言った。
「あの千代紙で奴さんをつくってって話?バカバカしい」私がそう言うと、「本当にそう思うの?!あなたの名前も書いたのよ!」と叫ぶと、家を飛び出していってしまった。私はそのままにもしておけず、Sを追いかけた。
Sは町内の共同墓地に向かっているようだった。墓地に入り、ある墓の前でSは立ちすくんでいる。
近づいた私は、Sの立っているあたりの異様な光景に愕然とした。おびただしい数の千代紙で折られた奴さんが散乱していた。
金や銀の千代紙に夕日が反射して、キラキラと光っていた。奴さんの一つ一つは手がなかったり、まっぷたつに破かれたりしていて、一つもまともな形のものはなかった。
Sはゆっくりこちらを振り向き、口を開いた。目を見開き、まともな精神状態であるとは思えなかった。
「もう全部おしまい、終わりなの、私も、あなたも」Sは足下に散乱している奴さんの一つ(これは頭の部分が切り取られていた)を手に取り、広げて私に渡した。そこには・・・私の名前がかかれていた。
私は恐ろしくなってしまい、「バカバカしい!」と一喝し、家に帰った。次の日、Sが実父の墓の前で首を吊って死んでいた。
それが三日前の話。Sの死体はそれは酷かったらしぃ。
彼女の父の墓の側に大きな桜の氣があるのだが、自分の腹を裂き、梯子で気に登って一気に飛び降りたので、体内の臓物がずるりと傷口からたれさがり、大きく揺れたので奴さんに体液だの血液だのがメチャクチャに飛び散っていたそうだ。その日の夕方、学校から帰ると母と、警察の人が待っていた。
墓の管理人の方が、Sと私が墓にいるのを見たので事情を聞きにきたそうだ。私はあった事をそのまま話したが、警察の人は何か2、3行メモをとって。
「ありがとうございました」と言い行ってしまった。母も、「もうSちゃんの事は忘れなさい」そう言っただけだった。
翌日の放課後、私はSの父の墓を訪れた。思い出したくもないのに、何故か足がそこに向かっていた。
まるでなにかに導かれるように・・・現場はテープが張り巡らされおり、立ち入り禁止と書いてあった。おびただしい数の奴さんはもう片づけられていた。
生々しい血の跡と、それを囲む白いチョークの印だけがそこにあったふと、なにかおかしい事に気づいた。ちょうどSがぶら下がっていた真下あたりに、大きな黒い染みがある。
明らかに他の血痕とは違うし、白いチョークの印もついていない。まるでその部分だけ雨が降ったように、地面が黒くなっている。
その黒い染みは、ちょうど頭のない人の形に見えた。その真ん中、胸のあたりくらいに、金色の千代紙の切れ端が夕日を反射してちらちら光っていた。
私はテープの中に入りそれをつまみ上げた。ちょうどTの時になった。
金色の奴さんだ(あのときSが私に見せたものだ)。それを開いてみる(予感はしていた)そこには私の名前と、そしてさらに書き加えてあった。
「次はあなた」これが昨日の話。私は寒気を覚えた。
「Sも私のこと呪ってたんだ。」それを知って恐くなってしまい。
走って家に帰った。「もう全部おしまい、終わりなの、私も、あなたも」あのときのSの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
部屋に帰り、押入からダンボール箱を取り出した。庭に持っていき、灯油をかけて箱ごと燃やした。
ダンボール箱いっぱいにつまった奴さんが、チリチリと音を立てて燃えていく。ちょうどその頃、墓地の火葬場から煙りがもくもくとあがっていた。
夕焼けに照らされて、赤く染まった煙が。「次はあなた」その言葉が私の頭から離れない。