ある一家が突然心中したんだよ。
夫婦と小学校三年ぐらいの娘の三人家族。動機は全く不明。
周囲からは仲のいい幸せな家庭と見られていて、何の問題もなさそうだった。死因は睡眠薬中毒。
妻が不眠を訴えて通院し溜め込んでいたもの。娘には抵抗した様子はなかった。
死ぬ数時間前、なぜか家中が破壊し尽くされていた。夫がホームセンターで買い込んだ大型鋏、斧、鋸、電動カッターなどによって。
壁、床、窓、屋根、家具、衣類、細々とした物品に至るまで徹底的に。家族の写真が貼られたアルバムは一冊残らず執拗なまでに切り刻まれていた。
娘の部屋も例外ではなく、三人共白い軍手をした形跡があったことや指紋の付着跡などから、どうやら娘も破壊を手伝ったようだった。遺書等は発見されず、状況が不可解なこともあり遺族は警察に他殺の可能性を訴えたが、捜査の結果一家心中と断定された。
検死の結果、最後に息絶えたのは父親だった。妻の両親は死の数週間前に一家が訪ねてきた際、夫がこんな言葉をポツリと漏らすのを聞いていた。
「わたしたちにはもう、娘がすべてです。あの子の望みなら何でもかなえてやろうと思っています」その時の表情はいたって穏やかで、思い詰めた様子などは微塵もなかったという。
また、娘の小学校の担任教師は、同じく数週間前のある日、娘が教室で突然、「目が見えなくなった」と言いだし周りの生徒も騒ぎだしたので話を聞くと「見えなくなったふり」をしていただけだった。なぜそんな悪ふざけをするのか問いただしたところ、「でも先生、本当は、本当に見えないんです。
お父さんもお母さんも見えないんです」と意味不明な答えを返したという。これらの証言が心中と何らかの関係があるのかは不明。