会社の先輩(仮にKさんと呼びます)から聞いた話です。
その夜もKさんは会社で深夜まで残業。帰宅するのに深夜タクシー呼びました。
家につくまでの時間つぶしのおしゃべり、という感じで話をしているうちにタクシーはKさんの家の近所の交差点までやってきました。前方の信号が赤になり、横断歩道の手前で運転手さんがタクシーを止めました。
しばらく待っているうちに、奇妙なことに気づきました。その信号は、歩行者がボタンを押さない限り自動的に切り替わるはずがないのです。
深夜のそんな時間に、歩行者がいるはずもありません。Kさんも、運転手さんも、もちろん歩行者の姿なんか見ていません。
それに、赤信号がやけに長すぎるような気が・・・。その時です。
「バンッ!」という大きな音が、タクシーに響きました。誰かが、タクシーを思いきり叩いたかのような妙に腹の底に響く音。
運転手さんが、Kさんに尋ねました。「信号、ムシしちゃっていいですか?」Kさんがこくりとうなずくと、そのままタクシーはタイヤをきしませながら猛スピードで走り出しました。
あとはひとことも口をききません。しばらく走ったところで、運転手さんは急に車を止め「お客さん、ちょっと屋根の上を見てもらえませんか?」とKさんにたのんだそうです。
しぶしぶKさんは、窓から首を出してタクシーの屋根を覗いてみました。なんの異常もありません。
確かに妙な音は聞いたけれどただそれだけのことと思っていたKさんは、不審に思って運転手さんに聞いてみました。「一体、なにがあったんですか?」「いえ、誰かがね、フロントガラスをたたいたんですよ。
さっき音がしたでしょ?あん時に、屋根の上からこう、なまっちろい腕がにゅうっと出てきて、バンッて。本当に誰もいませんか、屋根の上・・・?もう一度確認してもらえませんか?・・・」