私の実家(っていうか今居る)の階段に小さい女の子が出ます。
彼女が出るようになったのは4年ほど前です。彼女は毎晩11時を過ぎると階段をひたすら昇っては降り、昇っては降り。
それを朝方3時過ぎまで延々と続けます。祖母が言うには、彼女は6歳で亡くなった俺の叔母によく似ているそうです。
だから、彼女が出るようになってから4年、階段の下から4段目。叔母がよく腰掛けていた段には、毎日何かしらお菓子が供えられています。
あれは去年の今頃、暑い夜でした。ある晩、その少女が夢に出てきたのです。
正確には夢ではなかったのかもしれません。気が付くと、視界には寝る直前に見ていた自室の天井が見えていました。
そこにベッドの横から、セミロングの少女が顔を覗かせました。不思議と恐怖はなく、しばらく目を合わせていると、彼女は無邪気な笑みを浮かべ、部屋の端にある俺のベースの元へ歩いていきました。
すると彼女はベースに貼ってあるスマイリーのステッカーを幾度か撫で、俺に手を振りながら、朝方のまだ薄暗い部屋に溶けるように消えました。また寝てしまったのか、再び目を覚ましたのは朝の10時でしたそれから一週間後、ライブの帰り道でした。
俺はバイクに轢かれました(藁大きな怪我は無かったのですが、打ち所が悪く、気を失い、気が付いたのは病院の緊急治療室のベッドの上でした。心配そうに俺を見る両親、祖父母、妹。
泣きながら謝るバイクの運転手。ドラマで聞きなれた生命維持装置の音。
そして俺の意識を一気に引き戻したのが、病室の椅子の上にあった砕けたベースでした。そのとき父は、小さい声で、「よかった・・。
よかった、姉ちゃん・・。助かったよ・・・」そう言っていました。
それ以来、俺は大学の帰りにはコンビニで甘い物を見繕い、買って帰って、真っ先に階段の四段目に置いています。未だにその子が叔母なのかどうかは分かりません。
その子が助けてくれたのかどうかも分かりません。もしかしたら、単なる偶然なのかもしれません。
それでも、俺の部屋の隅には、新しいベースと並んで、セロハンテープで無理矢理くっ付けた、砕けたベースが置いてあります。彼女の足音は今でも聞こえてきます。
今夜も聞こえるでしょう。おそらく、これからも。
俺が嫁貰ったら何て説明すればいいんだろう・・・orz