洒落にならない怖い話を集めました。怖い話が好きな人も嫌いな人も洒落怖を読んで恐怖の夜を過ごしましょう!

  • 【洒落怖】川沿いの家

    2024/06/18 21:00

  • 十数年前の話。

    私が6歳、兄が8歳の時だろうか。私たちは、お盆休みを利用して、両親と4人で父の実家に遊びに行った。

    その日はとても晴れていて、気持ちが良い日だった。夜になっても雲一つ無く、天の川が綺麗に見えた。

    最高の景色。花火をして遊んだ後、イトコの兄ちゃんと姉ちゃん、兄と私の四人で、夜の散歩をすることになった。

    こんな夜に外に出ることはあまり無かったため、探検気分で意気揚々だ。イトコの兄ちゃんと姉ちゃんはもう大きかったので、両親もにこやかに送り出してくれた。

    父の実家はとても田舎で、小高い丘の中腹にある。家の裏は竹林になっており、その竹林の向こうには小さな川が流れている。

    戦前はその川に沿って道があり、そこがこのあたりでは一番メインの道だったそうだ。しかし今はその道はなく、名残のように川に沿って家がぽつぽつと建っていた。

    父の実家も含めて、川に沿って建っている家はどれも古い。少なくとも、戦前から建っている家ばかり。

    父の実家は改装をしていたのでそうでもないが、他の家はどこもボロくて、どことなく廃墟っぽい家すらあった。私たちは懐中電灯を手に、裏庭にある竹林を抜けて川沿いに出た。

    昔の道のなごりだろうか。川の土手は平らで、歩きやすくなっている。

    イトコの提案で、土手をつたって上流へ向かうことにした。ぽつぽつ建っている古い家はどこも真っ暗で、明かりすら灯っていない。

    そのことをイトコの兄ちゃんに言うと、彼は少し逡巡した後教えてくれた。「この川沿いはねえ、僕たちにとって肝試しコースなんよ」彼曰く、この川沿いに建っている家では、上流から順番に不可解なことが起こっているらしい。

    一番上流にある家は、三十年ほど前に一家で心中した。二番目の家は、その十数年後に火事になって焼失した。

    家族五人のうち、二人が亡くなった。三番目の家は、一人暮らししていた老人が孤独死した。

    発見されたのは二ヶ月も後のことだった。(後ほど聞いた話では、発見したのは叔父と叔父の友人らしかった)四番目の家は、金銭難で父親が自殺をし、その後一家離散した――「……じゃあ、五番目の家は?」私の兄が聞いた。

    イトコは、小さくため息をついた後に答えた。「五番目の家は、うちなんよ」ぞっとした。

    もし、イトコや叔父達に何かがあったら……沈黙が、四人を包んだ。私は幼心にどう言っていいか分からず、黙ってイトコや兄たちに着いていった。

    数分歩いて、「二番目の家」の跡地についた。暗くてよく見えなかったが、そこは更地になっていたようだった。

    ふと、私は気が付いた。ふわふわとした光の玉が、ぼんやりと浮かんでいることに。

    ぎょっとして、目をこらした。光の玉は二、三度縦揺れした後にフッと消えた。

    怖くなって、「もう帰ろう」と言った。イトコ達や兄も、実は帰るタイミングを逃してここまで来ただけだった。

    私の提案にすぐさま賛成してくれて、四人は早足で家に帰った。お盆休みが終わって家に帰っても、私はその光の玉と、イトコの話が忘れられなかった。

    もし、父の実家に何かがあったらと思うとぞくぞくして、眠れなくなる日もあった。しかし、時間が経つにつれてそれも風化した。

    父の実家には、小学生の時は毎年二回は遊びに行っていたが、徐々に数を減らしていった。兄は大学生になってから家を出た。

    そのころはもう二人とも、そこにはしばらく行っていない状態だった。私が高校3年の夏、兄が帰省した。

    私と兄はとても仲が良い兄弟だったので、夕飯後、二人して好きだった映画を流しながらダベっていた。映画が終わり、それでもしゃべり足りなくて色々と話した。

    きっかけは何だったか忘れたが、ふと話題が、あの夏の日のことになった。「あの話、怖かったよね~。

    まだイトコ達になんも起こってないから良かったけど」「ホンマに。未だにあの話は忘れられんわ」頷く兄に、私はもう言ってもいいかなと思って兄に言うことにした。

    光の玉の話だ。なぜか、そのことは誰にも言っちゃ駄目だと思いこみ、今まで誰にも言わずにいたのだった。

    「そういえばさあ、私、あの日見ちゃったんよ」わざとちゃかしながら、そう切り出す「火の玉……というより、光の玉?みたいなやつ。しかも火事になったいう、あの家んトコで見たんだよね」私の言葉を聞いて、兄はぎょっとした目で私を見た。

    「俺も」「え?」「俺も見た!変な光の玉。ふよふよ浮いとった!」今度は、私が驚く番だった。

    もしかしたら気のせいだと思っていたあの光の玉を、兄も見ていたのだ。ぞーっとし、暗黙の了解でその話題はそこでとぎれた。

    その日私は眠れなかった。その数ヶ月後、兄が死んだ。

    とある事故だった。書いてしまうと身バレする可能性があるのでやめておく。

    ちょっと普通では考えられない、特守な事故だった。ニュースにもなった。

    次の年、父方の祖父が死に、後を追うように祖母と叔父が亡くなった。三人とも、同じ病気でだった。

    (もちろん、感染症や伝染病ではありません)あまり聞いたことのない病名で、お医者さんも変な偶然に首をひねっていたそうだ。もともと母親が居ないイトコの家は、イトコ兄弟だけになってしまった。

    叔父の通夜の前の夜、叔父の遺体が収まった棺桶の隣で、イトコの兄ちゃんと姉ちゃん、三人で飲んだ。二人とも、この家を出るのだと言った。

    「やっぱり……、怖いから。信じてる訳じゃないんやけど……」――あまりお酒が強くない私は、酒をさまそうと二人に断って外に出た。

    ぼんやりと庭を散歩し、裏庭に行く。さらさらと、川が流れる音がする。

    あのころ、うっそうと茂っていた竹林は、全て切られてなくなっていた。荒れ地となったその場所に時間の流れを感じながら、ふと振り返る。

    イトコの家の目の前に、あのころ見たのと同じような光の玉がふよふよと浮いていた。なんとなく思う。

    私は、もうしばらくしたら死ぬかもしれない。それも、兄と同じような事故で……そう考えると、怖くてたまりません……