長距離トラックの運転手だった父から聞いた話。
昭和40年代ぐらいまでは少し郊外に行けば殆どが無舗装の道ばかりだったそうで。ある日の深夜、助手のアンちゃんと共に群馬郊外の直線の続く無舗装道路を走っていた時の事。
急に助手がサイドミラーを怪訝そうに覗き込み始めた。「Sさん…なんか後ろから来てるんですけど」後ろから来るって車だろうが、それは。
と思いつつもバックミラーを見た父だったが、そこには何も映ってなったそうな。広がるのは暗闇ばかり(街灯も殆どない田舎の道)でふと父もサイドミラーに眼を落とすと、そこには丸くて黄色い物体、それも結構な大きさの物が迫ってくる。
なんだかよくわからない物体、しかも街灯のない暗闇の中、ライトに照らされているわけでもないのに妙にはっきりとその物体だけが見えたと父の弁。とにかくやり過ごそうとトラックを脇に寄せてスピードを落とすと、その黄色い物、直径1.5m(大体大人の背丈ぐらいだったらしい)の表面にびっしりと細かい毛のような物が生えた、例えれば「巨大黄色キウイ」の物体が父の目の高さをすり抜けていった。
結構な速度で見る見る前方の暗闇に消えていくキウイ。「何ですか?あれ」呆けたような助手の問いに俺だってわかるわけないだろうが、と言う代りに再び発進した父のトラック。
だが5分も走ると「脇道のないはずの左側から」急に先の物体がまたしても暗闇の中に姿を現し、トラックの10mほど手前まで接近してきた。父もさすがに怖くなり徐々にスピードを落としたそうだが、まるでそれにあわせるかのように巨大キウイも減速、間隔が5mほどに詰まった。
ライトに照らされたせいでさっきよりも物体のデティールが確認できたそうだ。丸く黄色い本体の上部、言うなれば「背中」から馬、もしくは鹿のような蹄のついた足が「1本だけ」上向きに生え、しかもその足は「狂った指揮者」のように、不規則にじたばたとせわしなく動いていた。
その足の付け根から左下方の本体には、これまた不規則な感覚の大きさもまちまちな穴がいくつも開いている。その穴の正面に陣取る形となった助手のアンちゃんは「…この穴、開いたり閉じたりしてますよ、なんか汁まで出てる」後で詳しく聞くと「まるで呼吸してみたいな動き」だったそうで。
3分ほど追走した父は我にかえり、トラックを止めた。キウイは何事もなかったかのように再び闇の中へと…父は余りこの手の話が好きな人ではないのだが、さすがにこの時ばかりは職場の同僚に「こういうものを見てしまった」と告白したそうな。
信じない人(半分ぐらい・長距離トラック運転手は結構この手のものに遭遇経験持つ人いるもんで)が必ず「何かと見間違えたんだろ?」というのにかなり腹を立てていた父はこう言っていた。「直径1.5mの丸くて黄色い、背中から馬の足が生えた物。
何を見間違えればそう見えるんだ?」と。