皆さんは悩み事を誰に相談しますか?友達、両親、ネット?それとも自分一人で悩んで解決しますか?俺には父親がいません同じ境遇の人はたくさんいるでしょうが、小さい頃から父親の記憶というものが無く、父親に対する幻想のような物が割とふくらんでいると思います。
ある程度大きくなってからは、父親に悩みを相談するようなシチュエーションにあこがれたりしています俺がまだ小学三年生の頃、近所にお化け(幽霊だと思うのですが、当時は皆おばけおばけと言っていた)が出るという廃屋がありました廃屋といっても山を切り崩す工事か何かをしたときのプレハブみたいな二階建ての建物でしたなぜか工事は途中で頓挫して、プレハブも放置という状態でした。プレハブの前は、切り崩したあとの地面をならした後に草ぼうぼう、後ろは山といったかんじですそこの二階でお化けが出るというのですすでに誰かが肝試しに行ったらしいのですが、どこからばれたのか親が迎えに来て、前まで行っただけでつれ戻されたということです。
昔から怖がりのくせに好奇心旺盛の俺は友達に「お化け見に行こうぜ」と言いまくりましたなぜか誰も話に乗ってこず、「おまえらビビりやなぁ~」などと言っていました。そこから急に話は飛びますが、俺たちは例のプレハブの前にいます。
俺ともう一人、Oという友人です。なぜ話がとぶかというと、Oを誘った状況はどういう風だったか思い出せないからです。
時刻は夕方でその日は夕焼けでしたそれ以上遅くなると親に叱られるので、小3の俺たちにとってはギリギリまで遅い、怖さアップさせたつもりの時間帯でした。以前別の友達がどこかの山で買ってきたお土産のおフダ(今考えれば印刷物だったと思いますし、めっちゃ子供だましw)も持って準備万端ですプレハブには外に階段があって二階には三つほどドアがあったと思います。
アパートみたいな形と言えばわかりやすいでしょうか近くに住宅地はありましたが、数十メートル先。工事の山の方には人なんて来ません。
でもプレハブの階段をのぼる音がやけに響いたように記憶しています階段をのぼったすぐのドアノブをひねってみます。鍵がかかってるかなと思っていたのですが、何の苦もなくカチャ、と開いて逆にドキリとしましたおそるおそる中をのぞいてみると・・・中は真っ暗でした『どうしよう、こえええぇ~!』でも入る前に逃げ出したなんてもの笑いの種です子供ってのは案外プライドが高いものです。
俺はOといっしょに中に入りました。戸をあけたままにしたかったのですが、一人がドアを持っていて一人が中に入ろうかと相談しているとOが、僕が入ると言って少し進みました途端、恐がっていると思われたくない気持ちがむくむくとわき、「俺も!」と言って、後ろ手でドアを離し、Oの後を追いましたドアが後ろで閉まると、更に真っ暗になりましたが、だんだん目が慣れて、ドアと反対側にある窓に板で目張りがしてある事がわかりましただから夕方にもかかわらずこんなに真っ暗なのですはっきりは見えませんが、どうやら中には事務机らしきものが、乱雑に置かれていました。
その、事務机の、一番端。窓に向かって右側の机の後ろ。
なにかがぼんやり上下運動しているのが見えました。その時俺の身体はビクッ!とすごく大きく動いたことを覚えています。
何かが動いている箇所をじっと見つめると、机の上に正座して座っているおかっぱの女がこくこくと、窓の方に向かっておじぎをし続けているのが見えたのです!「ヒッ」としゃっくりのような音が俺の口から漏れました怖い!目が離せない!よく「一目散に逃げた」とか見ますが、俺はぜんぜん無理です身体が固まってうごけません。一瞬のうちに、「後ろから追い付かれたら殺される!」とか考えてしまって足が動きません正直、恥ずかしながらOの事を気にしている余裕はありませんでした視線だけドアの方に向けて、何歩くらいで外に行けるか計ろうとした時です!入ってきたときは背中側になったので見えませんでしたが、ドアのすぐ横の壁に「安全第一」と書かれた小さめのポスターが貼ってありましたそのポスターの左下がくるりとめくれ、壁から誰かの目がこちらを覗いていました壁ですよ、壁。
なにも空間がないはずの壁に人の目が!思わずあとずさり、後ろの事務机にガタンとぶつかりましたその音に、すみっこの事務机の女がこちらを向きましたどんな顔と説明するのは難しいのですが、とにかく恐ろしい顔です。その女がこちらを向いた瞬間、しゃっ!と移動して俺の前1メートルくらいに四つんばいで来ましたその早さはもうすごいものでしたなにしろ正座していた状態から一瞬で俺の前に!膝を床につけた這い方じゃなく、足の裏を床につけて尻が少しあがる這い方ですもう頭がパニック状態になりましたしかし今でも良く思い出したと思いますが、お札を持っていたことを思い出しました冷静に考えればすぐ出せたのに身体じゅうさがして右ポケットからぐちゃぐちゃのお札を出しました無我夢中で女に投げ付けましたが、薄っぺらいただの紙です俺の足元にただひらひらと舞い落ちただけでしたそうっと顔をあげると、「そんなものきかないよ」と女が言ったのです腹の底にズン!と響くような声で、両二の腕がざわあっ!とあわ立つのがわかりました俺の恐怖は最高潮に達し、どこかで地の底から叫び続けてる様な声が聞こえましたそれが自分の声だと気付きましたが、声はとまりませんその時です「大丈夫!」というしっかりした声が聞こえました。
今の今まですっかり存在を忘れていたOの声でした「大丈夫や、おまえが怖がることは何もないんやで」見ると子供の顔立ちなのにまるで大人の様にしっかりとしたたよりがいのある横顔でしたそのまるで大人が子供に優しくあやすような言い方が何か気になった途端、秋も半ばだというのに、いきなりむわっと暑くなりました。暑い!すごい湿気で、なにかむせかえるような臭気が立ち上りました。
あまりの臭気に俺は立て続けにむせました何度もむせて、目を開けた時・・・そこにはOも女もましてやポスターの目も何もいませんでしたただ、押さえてないと開いていなかったはずのドアが開いて、外から夕焼けの光が入ってきていました俺は事務机にぶつかりながら外にまろび出て、転がる様に階段を降りました降りきってから、今日の肝試しは結局誰も誘えなくて、一人で決行することにしたのを思い出しましたあとはもう大泣きしながら、家に帰りました道行く人が怪訝な顔で見ていました家に帰ると母親はまだパートから帰っておらず、祖母がいましたとにかく疲れて祖母がテレビを見ている横でぐっすり眠りました夜十時くらいまで寝たと思います怖くて風呂に入りたくないとゴネる俺でしたが母親にしかられて仕方なく入りました風呂の暖かさは怖いものなんかじゃなくて、今日のOを思い出させました「おとうさん・・・」女は怖かったし、風呂で思い出してもいいくらいの恐怖を味わいましたが、ひょっとしてOは父親だったのかもしれないという思いが、恐怖を忘れさせました何の根拠もないのですが、俺に怖がることはないんだよと優しく言ったあの台詞が、俺の勝手な父親像と重なりました風呂から上がって、父親のアルバムを見ましたさっきの横顔は写真の父に似ていたかもしれない。そもそもあんなことありえない、何もかも俺の恐怖心が見せた幻だったかも知れませんでもあれは父親だったと考える方が自分にとってうれしいのです俺は勝手にそう思っています女と目がなんだったのか、調べようがなかったし、調べる気にもなりませんでしただから今でも何だったのかわかりませんもしOが父親だったとしたら、ちょっといい話に行くべきかもしれませんが、それは俺の勝手な思い込みですし、お札がきかないといわれたあの瞬間が、俺の人生でMAX洒落にならない恐怖を感じた時でしたので、書き込みさせていただきました進路なんかの事で、悩んだりするとき、写真の父親でなく、今でもあの時の横顔を強く思い出して心の中で相談します