去年の夏頃に私は静岡のあるブティックで理解不能な経験をしました。
その店には月に何度となく立ち寄っていたので、店員とはすっかり仲良くなり休みの日はたまに一緒に出かけたりするほどでした。そしてその日もいつもの様にフラッと立ち寄り店員とあれこれ話しながら新作の夏物を物色していました。
店内には他にも6人程のお客さんがいて、みんな賑やかに話しながら思い思いに見てまわっていました。しばらくするとドアに付いた鈴がカランとなり、外の暑い湿った空気が入り込んできました。
「いらっしゃ・・・・・・」挨拶をしかけて急に店員がやめたので「なんだ?」と思い入り口に目を向けると、誰もいません。でもその場には真上から照明を落としたような、丸く黒い影が2つあったのです。
私と店員は唖然としてしまい、ただその影を見つめていました。他のお客さんも何事かと私達と入り口の間をキョロキョロ見ていましたが、やがて気づいたようで息を呑むのがわかりました。
その影はゆっくりと棚の前を、まるで服を見ているかのように移動しています。影はそのまま店内を一周するとドアの鈴がカランと鳴り、消えました。
今度はドアが開くことはありませんでしたが。その場にいた人はみんな口々に「今の見たよね?」と確認しあっていました。
時間は真昼の一時を少し過ぎたくらいだったと思います。それから二度と見ることはありませんでしたが白昼、大勢で見たあの影はなんだったのか今でも不思議でなりません。