10年ほど前、私が現役高校球児だったころに元キャッチャーのOBの先輩から聞いた話です。
私の頃はすでに弱小野球部に成り下がってしまっていましたが、そのOBが現役だった頃は県内でもトップクラスの成績で、甲子園出場も果たしていた強豪チームでした。その年の夏、甲子園出場へ向けて彼らは順調に勝ち進み、準決勝の場は○○市民球場になりました。
公式戦に良く使われていた○○市民球場は昔から幽霊が出るという噂がありました。当時○○市の野球少年だった方ならご存知の方も多いと思います。
でも、噂には良く聞いても、実際に体験したという人がいたわけではなく、そのOBの現役時代も、噂には聞いていたけれど信じる人などはいませんでした。実体の無い噂話とでも言いましょうか。
試合は中盤にさしかかり、試合は0対0のまま。攻撃の番でピッチャーがトイレへ行きました。
数分後、彼はベンチに戻るなり「さっきだれが打ったの?」と言いました。みんな顔を見合わせて変な顔をしたそうです。
なぜなら、ヒットどころか三者三振。これから守備位置へ走ろうとしていた時だからです。
「お前何言ってるの?しっかりしてくれよ」その試合は結局我が校の勝ち。試合後、ピッチャーは確かにトイレで金属バットの打撃音と観客の歓声をハッキリ聞いたと言い張ったそうです。
まさか噂の幽霊じゃないか?と言い出す者もいました。しかし、あと一勝で甲子園出場。
幽霊どころではありません。決勝戦も再び○○市民球場でした。
ところが、そのピッチャーは球場へ来る途中、車にはねられて亡くなってしまったのだそうです。エースの居ない試合はもちろんボロ負け。
余りに悲しい幕切れでした。その後、死んだピッチャーの事件が幽霊の仕業だという噂が流れました。
球場は実は大昔の合戦場跡で、ピッチャーが聞いた金属バットの音は刀と刀がぶつかる音だったんだとか、歓声は死んだ侍達の雄叫びだったんだとか、夜中になると球場を練り歩く落ち武者達が現れるとか、もちろん、根も葉もない話です。ところが、その後監督が突然の病で倒れ交代、幽霊話が実しやかに囁かれるきっかけになりました。
そしてさらに不可解な事件が立て続けに起こりました。翌年、我が野球部は念願の甲子園出場を果たしたのですが、ピッチャーの姿が、まるで前年に死んだピッチャーが乗り移ったかのように瓜二つに見えたというのです。
その年の暮れに○○市民球場は閉鎖され、跡地にはショッピングセンターが建設されました。