小学生の頃の話です。
親友が転校してしまったので、その後の学校であった出来事などを事細かに報告する手紙を書いた日の夜でした。夜半過ぎ、私は目を覚ましてトイレに行こうと部屋を出ました。
すると、暗い廊下を誰かがふらふら近寄ってきます。私と同じくらいの背丈。
一人っ子の私は、お化けだ!と怯えました。間近に迫った『それ』は、妙にぺらぺらと薄っぺらいものでした。
絵に描かれた子供でした。私は、それに見覚えがありました。
それは物凄く悲しそうな顔をして、手に持った紙のようなものをひらりと落とすと、消えました。トイレに近い玄関の壁に、親友のY子ちゃんが描いた、私とY子ちゃんの絵が飾ってありました。
図工の時間に描いた絵を、Y子ちゃんが残していったので、当時の担任が私にくれたものです。Y子ちゃんのことを私は親友だと思っていました。
勉強も体育も苦手で口数の少ないY子ちゃんの面倒を見てあげているつもりでした。周囲が「いつも偉いね、優しいね」と褒めそやすので、得意でした。
彼女のすることが気に入らないと、「注意してあげる」つもりで他の友達と一緒に囲んで長々文句を言い、これだけ面倒を見てあげているんだから当然だと、彼女の持ち物をしょちゅう取り上げました。掃除当番や委員会の仕事もよく押し付けました。
今思えば、Y子ちゃんは私の事が大嫌いだったと思います。あの絵も、近くの席にいたY子ちゃんに、『私のことも描いて!』としつこく言って描かせたものでした。
廊下には、ポストに入れたはずの手紙が落ちていました。もう一度出す気にもなれず、捨てることもできず、今もきっと押入れのどこかにあります。
あの絵の中で私は、Y子ちゃんとくっついて笑っていたはずなのに、あの日の夜から隅のほうに悲しそうに立っているようになりました。夜な夜な絵から追い出されていたんじゃないかって思います。
たまに、微妙に位置やポーズ、変わってましたから。中学になって、家族の誰かが絵をはがして捨てました。
私はそれまで、夜中にトイレに起きなくて済むように夕方から一切飲み物を摂らない生活をしてました。