十数年前、自分は高校の陸上部に所属していた。
その日は雨で、弱小陸上部のウチらは、他の運動部に体育館を追い出され、実験棟内でトレーニングしていた。4階建ての棟内をリレーするコトになり、タッチを受けた自分が階段を駆け上がり、4階手前の階段に差し掛かると、先行していたK先輩が、上の階から、目を見開き、四つん這いで降りてきた。
鬼の形相を向け、声にならないうめき声をあげながら、手足をバタバタさせるその姿に、ウワっとおののき驚いた自分は、後続とぶつかり、池田屋よろしく階段を転げ落ちた。他の部員が、自分たちの声を聞き『なんだ?なんだ?』とワラワラと上がってきた。
一人の先輩がK先輩に「どうした。転んだか?」と問いただすとK先輩は”あっち!あっち!”と4階を指さした。
みんなでおそるおそる4階に上がると、廊下の行き止まりにある配管室(とでもいうのか?)の鉄の扉が少し開いている。なんだ、という感じでみんなで覗き込むと、間近に作業服の男の尻が・・・学校の職員が首を吊って自殺していた。
その後、警察も来る大騒ぎとなった。(当時、同じ学校に居たヤツはドコのことか判っちまうか)で、そのコトがあったあと暫くして、K先輩は部活をやめた。
その上学校にまで来なくなって自主退学。他校に転入したそうだ。
『ショックなのは判るけど、学校やめる程のコトかぁ?』と、みんなで話していたんだけど、その後、先輩連中から伝わってきた『K先輩が見たモノ』の噂を聞いて『そりゃぁ・・・やめるかもなぁ』と。以下、『K先輩が見たモノ』の噂。
K先輩が最上階に駆け上がると、配管室の鉄の扉がバン!と大きな音をたてた。”なんだ!”と立ち止まり、配管室に目をやると、両足首を捕まれスッテーンと転ばされた。
K先輩は”誰だ!”と腹を立てて、自分の足を見ると、腹這いの無表情な作業服の男が両足首を掴んで居た・・・以上が噂。で、その後は最初に書いた顛末。
噂は真実なのか、今となっては判らない。学校職員がなんで自殺したのかも、わからずじまい。
「K先輩は、その男に呪われるのが嫌で退学した。」という今考えると『どうなんだそりゃ?』という噂に納得していた自分は真にDQNだ。
その後、雨の日の我が弱小陸上部は実験棟の1階で筋トレするだけになった。今も、我が校にこの話は伝わっているのだろうか。