俺の近所に颱風になると必ず現れる不思議なおっちゃんがいる。
上下を濃いグリーンの雨合羽を来て暴風雨の中、住人に警鐘を鳴らすのだ。「川の水量が増してきたぞ~~気を付けろー!」「風がひどいぞ~!屋根飛ばされんようにしろよ~!!」などなどアドバイスをしながら町内を歩き回るのだ。
毎年毎年現れるので、近所の住人は気にもせず逆にもてなそうともしてたようだ。事実うちでも麦茶とお菓子ぐらいは。
と思い用意をしたのだがいつも「自分は忙しいですから。また呼ばれます。
」と言って暴風雨の中警鐘を鳴らしに行くのだ。そんなおっちゃんの秘密を知ってしまったのは去年のことだった。
台風一過の晴天の中、おっちゃんが俺の前を歩いていた。こんなに天気がいいのに雨合羽脱ぎゃいいのに思った。
そう、おっちゃんは快晴の天候にも関わらず、やっぱり濃いグリーンの雨合羽なのだ。知らない人でもないので声をかけてみようと思い少し近づいた。
だが、そこで俺の勘みたいなものがブレーキをかけた。「そういえば毎年くるけどおっちゃんの顔を知らないな。
」「普段は何してるんだろう?」「なんで颱風の時になると現れるんだ?」「自治会の人かな?」ブレーキかけつつ、おっちゃんに近づく俺。近づくにつれ、むっと獣の匂いがした。
外飼いの大型犬のような匂いを湿っぽくしたような匂い。何だこの匂い?きょろきょろ辺りを見回すが犬を飼ってるうちは見当たらないし、そんな匂いの元になるものは無かった。
やっとおっちゃんに追いつき、「こんにちわ!いい天気になりましたね!」と声をかけるとこちらを振り向かずに手を挙げて「そうですね」と答えてくれた。俺はくるりと踵を返すとダッシュでその場を離れた。
おっちゃんの手には茶色い毛が生えていて、指の間に水かきがあった。爪も獣の爪だった。
今年の颱風の時もおっちゃんは現れた。だが俺はあえて無視した。
母親にお茶も出すな。と釘をさしておいた。
おっちゃんの正体が分かって、もてなせるか?そんな剛毅な人に俺は会いたい。