私は四国の田舎の村出身ですので、幼小中と同じ地区の子供が集まりほとんど面子が変わることはありません。
これは30年近く前、私が中学生だった頃聞いた話で、事件の1年後くらいに本人に確認を取っています。私の2つ下にAという男の子がいた。
Aは取り立てて変わったところも無い、普通の男の子だった。ある8月(夏休み)の夕方、夕食までの間Aは家で昼寝のような感じで眠っていた。
そのうち、Aはおもむろに目が覚め、帽子を被って懐中電灯を片手に庭先へ出た。この時のAの意識は半分寝ぼけた状態で、何故目が覚めたかは判らないとのことだ。
Aが庭先に出て行ったことに家族の一人が気づいたが、ちょっと出ただけだろうと気にも止めなかった。家族の人の証言では、時刻は7:00頃とのことらしい。
Aが庭先にでると、6人の「人」がそこに立っていた。性別・年齢・容姿など一切Aは覚えていないのだが、6人の「人」だと思ったそうだ。
6人はAを認めると、山の方へ(Aの家自体が山の斜面に建っていた)歩き始めた。Aは寝ぼけた状態にもかかわらず、また見もしらずの人のはずなのに何の恐怖も感じず、むしろああついていかないといけないんだなと思い、吸い込まれるように彼らについていった。
裏の山といっても、結構標高はある。6人はAを囲むようにして歩いていった。
いつの間にか、周囲は真っ暗だ。そしてAを囲む6人も、もはや人ではなく、周りにつきまとう気配のようなものになっていた。
Aは、意識の上ではもはや「人」でないことを完全に理解していたが、別段恐怖心を感じる事も無く歩を進めていく。まだ寝ぼけた状態が続いていたのだ。
周りの「気配」はなにやらずっとヒソヒソ、ボソボソとしゃべっていたのだが、その内容までは聞き取れず、そのまま歩き続けていた。そのうち、 コン と懐中電灯に虫が当たった。
光につれられた虫のようだ。その刹那、周りにいた6人は一瞬にして消え去り、声も聞こえなくなった。
ここでAはハッと正気に戻った。周りを見渡すと、来た事も無い山奥の道をただ一人でいる。
光といえば、自分の懐中電灯の灯りだけだ。突如猛烈な恐怖に襲われたAは一目散に家へと走り帰った。
Aを探す家族の人に出会い、安全を感じたのは夜中の0:00ちょっと前だった。後に太夫(いざなぎ流の祭司)がAの家族に言ったことには、その6人は「7人ミサキ」に引っ張られた者達で、Aを7人目として迎えに来たのだという。
そして0:00までに帰れなかったら、死んでいただろうと言った。しかし、Aのおばあさんが毎日熱心に神棚を拝んでいたので、そのおかげで神様が「虫」を使って助けてくれたのだと。
確かに私(とA)の住む地域では、昔男に捨てられた女が身投げして「7人ミサキ」となったと言われる所がある。身投げ後、立て続けに男ばかりが死んだので(転落して死ぬ・酔って眠って凍死 等)太夫に払ってもらったのだが、「強すぎて私の力では落とせない」とサジを投げてしまっていた所だ。
しかしその女性が身を投げたのは昔の事だし、かなりの人が死んだとの事なので私達は「7人死んでるだろう」とすっかり安心してそこで泳いだりしていた。結局、「何故『A』を迎えに来たのか」という事は判らずじまいであった。
Aはその後怪奇現象にあうことも無く現在に至っているが、当時の私はいつか自分の所に迎えに来るのでは・・・と思うと非常な恐怖を感じていたものだった。