子供の頃にこっくりさんが流行っていた時期があります。
もう何年も前の話です。夏休みのはじめ、友達を家に誘ってこっくりさんをしようということになりました。
僕、田中(仮名)、大田(仮名)、の三人でした。三人で机を囲い、例の呪文を唱えました。
どんな呪文だったか、どんな質問だったのか、二つとも覚えていません。そのうち、十円玉が動き出し次々に文字が指定されていきました。
子供にはこの現象がどんなに恐ろしい事かわからなかったのかもしれません。そして、完成された文章は「夏休み中に田中を殺す」でした。
その文を読みあげた瞬間、部屋中に冷たい空気が流れていました。当の田中は「そんなわけないじゃん」とつっぱねていましたが、僕と大田は田中の顔をまじまじと見つめていました。
そんなことがありましたが、夏休みもどんどん過ぎていき、残りあと2、3日となったある日。またいつものメンツで川へ釣りをしに行くことになりました。
目的地の川へ着き、3人それぞれ別の釣り場で魚を釣っていました。10分、20分過ぎた時に異変が起きました。
「助けて!」と大きな声が響いていました。田中の声です。
僕と大田は田中の側へ駆け寄りました。川の中で必死でもがいている田中が見えます。
しかし、僕と大田は田中が泳ぎが得意なのを知っていたので何もせずに「どうしたんだよ」などと声をかけるだけで助けようとしませんでした。なぜか必死にもがいている田中。
すぐに陸にあがれるのになんであがらないんだろう、そう思って見ていました。次の瞬間に田中に起きた出来事は一生わすれません。
今まで必死いにもがいていた田中が急にもがくのをやめ、無表情になって静止していました。僕と大田が大声で話かけてもピクリともしません。
その目は生きている人間の目ではありませんでした。こちらを見ているのに、その向こう側を見ているようなそんな目…。
そのまま田中は静かに、目を開けたまま川に飲み込まれて沈んでいってしまいました。頭の片隅にあった、例の予告が本当に起きてしまった。
面白半分で神さまを呼び出してしまった事をとても後悔しました。友達だった田中の最後のあの表情、恐怖と悲しみが同時に蘇ります。
僕と大田は泣きながら事の顛末を大人達に話ましたが、みんな半信半疑でした。