夏休みでした。
夜中の12時くらい、いつも通らない裏道を歩いて帰っていました。突き当たりは空き地で、フェンスがしてありました。
そのまま左に折れてまっすぐ行くと、うちのすぐそばまで出る道なんですけど、小さい頃親に絶対通っちゃだめといわれてたので、ずっと通ってなかったんです。でもその日はふとその存在を思い出して、裏道に入りました。
前方に50代くらいのサラリーマンが歩いていました。後ろで車輪がマンホールを踏むがこんという音がしました。
あ、自転車が来たな、道細いからつめなきゃ、と思い、サラリーマンが歩いている側に避けました。が、なかなか自転車は追い越していきません。
あれ?と振り向くと、同時にわたしを追い抜いていく自転車・・・乗っているのは、顔中に茶色い包帯を巻いた全裸の人でした。顔には包帯をしているのに裸で、包帯で見えないけど口をぱくぱくさせているのがわかりました。
見た瞬間全身の毛が逆立ちました。わたしを追い越してサラリーマンの横をすり抜けていきます。
自転車の人の背中にはぼろぼろの木の板がはりついています。何か字が書いてあるけど読めません。
サラリーマンは酔っているのか、狭い道を端に寄るでもなくふらふら歩いています。ぶつかる、と思ったら、そのまますうっと通り抜けていきます。
追い抜かれて一瞬間をおいてから、「うわわ、あああ」と、サラリーマンが立ち止まって声を上げました。わたしも声を上げてしまいました。
そのまま自転車の包帯の人はまっすぐ走っていき、フェンスも通り抜けて空き地へ消えていきました。サラリーマンもわたしも呆然としていました。
逃げ出したいけど背中を向けるのが怖くて動けません。「見た?見た?」とサラリーマンが振り返って言いました。
わたしはうなづいて、ぶるぶると震えていました。「逃げよう、表通りにいこう」と、酔いが醒めたのかもともと酔ってなかったのか、サラリーマンが言い、二人で競うように表通りまで逃げました。
「見ちゃったね、えらいもん見ちゃったね。お嬢さん家どこ?送るよ」とおじさんが言いました。
変なかんじはしなかったし、一人で帰るのが怖くて、住所を言うと、「あれ、○○さんち?」とおじさんがいいました。母の同級生でした。
「あの空き地はね、昔からずっと古い廃屋があってね、るんぺん小屋なんておじさんが小さいときから言われてたんだよ。でね、そこで人が死んだり、自殺者が見つかったり、子供の死体が捨てられたり、いろいろあってね。
おじさんたちが生まれるよりずっと前に、もっと怖いことがあったみたいでね。(それは教えてくれなかった)とにかく悪いことばかりあるからって、ずっと昔に壊したの。
でもそんな場所ってみんな知ってるからさ、ずっと空き地のまま。おじさんもいつも気味悪くて通らないのに、今日はなにか、ちょっと酔っててさ、ふらふらっとね。
もう酔いも醒めたけどね」わたしは震えがまだ止まらず、いつの間にか半泣きになっていました。「やっぱでもね、怖い場所ってのはあるからね。
夜なんか特に通るもんじゃないね。あんまり怖いから、誰かに言いたい気持ちわかるけど、今日みたことはあんまり言わないほうがいいかもわからんね。
話すとついてくるっていうから、ああいうのは」そうしておじさんに送ってもらい、帰宅しました。あれからうしろに自転車の気配がすると、怖くてすぐ振り向いてしまいます。