あるアンニュイな昼下がりでした。
ベッドに腰掛けてテレビを見ていたんです。突然、そう突然でした。
視界の左隅で肌色の何かが動いたんです。例えるなら、三倍速で手のひらを開いたり閉じたりしているような肌色の蠢きを。
それは顔から30cmくらいの距離だったと思います。びっくりしました。
びっくりして立ち上がりました。その瞬間は霊だなんて思わずに、ただ単にびっくりしただけでしたが、突っ立ったまま「今のが霊かな?」と2,3秒考えました。
でも確かに驚いたけど、後に残るような怖さじゃないので、気にもせず、またベッドに腰を下ろしました。その瞬間、肩をガシッとつかまれ、強引に右側に振り向かされました。
肌色が見えた方向とは逆側に。そこには真っ赤な顔の人間がいました。
正確には人間の形をしたものが。グロ画像のモーターサイクルみたいなのがすばやく顔を近づけて来ました。
まるで恋人たちがキスをするような体勢で。それが眼前で止まったとき、モーターサイクルじゃなくてショートカットの口裂け女だって分かりました。
さっきよりも何倍も驚いて、恐ろしくて、でも視線を剥がせない。なんとなく目を逸らしちゃいけない気がしたんです。
別に体は動きます。金縛りなどには遭っていません。
むしろ口裂け女のほうがビデオを一時停止したかのようにピクリともしません。一分くらい見つめ合っていました。
その間僕はずっと「早く消えろ。消えろよカスが。
」と言っていました。すると口裂け女は「チッ・・。
」と言って、僕が瞬きした瞬間、消えていました。印象的だったのは、美川憲一みたいなキラキラの衣装をまとっていたこと