10年前、夜の田舎の鄙びた駅でバイト帰りの終電を待っていた。
ウォークマンの音量もmaxにうつむいて読書していた俺は、薄暗い駅に差し込む電車のヘッドライトを合図に本を閉じて立ち上がるのを習慣としていた。ある日、いつになく眩しい光にオヤっと思ってると、丸いモノが全速力で駅を通過して行った。
それが直径50cm台もある巨大な生首だと、しかも笑っていたと、…なぜか俺には分かった。初めて見た衝撃的な光景のはずなのに、まるで既知のことのように受け止め、俺につきまとわないよう無関心を装った自分が怖かった。
今から考えても不思議なくらい平静な自分がいた。やがて電車が来た。
扉が開いたとき、ふと、その生首の血走った目が俺をチラッと見ていたことを思い出した。いや、そんな錯覚に襲われた。
そして奴がこの電車と同じ方角に走って行ったことに気づいた。なぜそう思ったのか今もって分からんのだが、そのときの俺は、死んで何年も同じことしてんじゃねぇよ、などと思った。
読んでた数学の本に頭の大部分を使いながら、初めて見た物の怪の正体を知っているようだった。その日、乗ってた電車が人身事故を起こした。
今思い出すと、怖い。