私は高校を卒業し、親元はなれた某地方大学に入学しました。
そこは陸の孤島とも呼べる、最寄駅もなく、あっても駅までバスで1時間くらいといった田舎でした。私が入学した頃にはもう、周辺にはゲームセンターやカラオケ、コンビニ等が建っており、それほど不便さや寂しさを感じませんでしたが、大先輩に聞くと、昔は本当に何も無く、孤独に耐えられず自殺してしまう人も居たそうです。
10階建て校舎や、大学の近所にある公園内の塔等は自殺の名所だったそうで、校舎のほうは私のときにも屋上は立入り禁止になってました。まぁ私の在学中にも2件の自殺と1件の他殺、事故も結構ありましたのでそれよりも多かったんでしょう。
その大学の習慣なのか、1年生は殆ど全員大学の寮に入ります。私も例に漏れず某宿舎の204号室へ入居しました。
最初私の目に飛び込んできたのは、6畳大で狭く、東側の壁だけ真っ黒な石の部屋でした。「カビかな?」と思った私は入居前に塗りなおして、数ヶ月間は特に問題も無く生活していました。
寮の前にある気にスズメが集まり、その鳴き声が煩い以外は・・・・凡そ入学から4ヶ月位たったある日、夏休みの集中事業を午前中の部門まででフケてきた私は、サークルへ顔を出す前に少し眠ることにして横になっていました。冷房なんて無い石の部屋、当然に窓と扉を開けて風が通るようにします。
全開は防犯上よろしくないので、チェーンだけつけて半開きみたいな感じです。スズメの声が煩いですが、閉めても結局聞こえるのでこの際無視して眠る努力をしてました。
時間にして20分ほど、少しうとうとしかけ始めたときに異変が生じました。一瞬で目が覚めるようなすごい耳鳴りに襲われたのです。
キィィーンというハウリングは徐々にやんでいきましたが、今度は身体が動きません。それに気づくと同時に周囲が全く無音だということにも気づきました。
あれだけ煩かったスズメの声も、近くの大通りの車の音も全く聞こえません。私はやばいなぁこれはきたなぁと直ぐに感じました。
次の異変は、(私は足先までタオルケットを掛けていたのですが)誰かが私の身体に触れないよう足元から這い上がってくる感覚でした。直に身体には触れないのですが、タオルケットが両端に引っ張られる感覚と体重を乗せたと思しきベッドの一部ががきしむ感覚といえば解りやすいでしょうか。
それは時間を掛けて私の後頭部まで這い上がってきました。横向きに窓の方向を向いて寝ていたのでそれが何かは見えません。
ただ「ハー・・・ハー・・・・」という荒い息遣いだけが聞こえます。時間にして30秒ほどたっぷりハァハァされた所で、後ろの気配に変化がありました。
ゆっくりとこっちを覗き込むように移動してきたのです(布団にかかる体重の移動とかでなんとなく解る)。それは違和感でした。
なんていうか空間を人型に切り取って魚眼レンズで見たような・・・・向こうの景色は見えるのだけど、そこに何か1つ隔てているのがわかる感じです。それは暫くこちらの顔を見ていたのですが、またすーっと足元のほうに下がって行ったかと思うと、気配ごと消えてなくなりました。
その後けたたましいスズメの鳴き声に我に返り、金縛りもとけていたので起き上がったのですが、両手両足が痺れていて暫くベッドに座ってボーっとしていました。こんな暑い宿舎で全く汗が出てなかったのが不思議でした。
暫くたったある日、先輩にその話をしたんです。それを聞いて先輩は酷く驚いていました。
なんでもその宿舎(~号棟)は昔焼身自殺があったところらしく、灯油を頭からひっかぶってという凄惨さに加え、どこかその火でこげている所が残っており、塗りなおしてもそれが浮き出てくるという噂があるそうです。私がその宿舎を出るとき入居時に塗りなおした壁はうっすらと灰色に変色してましたが・・・はてさて。